デモの裏方事情 | 認定NPO法人 環境市民

デモの裏方事情

25万人という大規模なデモが行われたドイツ。現地在住のユミコ・アイクマイヤーさんから現地の様子について寄稿していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

ユミコ・アイクマイヤーさん プロフィール

埼玉県生まれ。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。企業および環境NGO勤務 を経て、2007年よりベルリンへ居住。環境分野の翻訳・調査業に従事する傍ら、 ロストック大学環境と教育課程(社会人修士コース)にて持続可能な発展のため の教育を学んでいる。訳書に『ドイツ環境教育教本』など。ブログはこちら

ここまでデモの雰囲気をお伝えしてきましたが、次にこうしたデモを実現している裏方に触れたいと思います。私がほとほと感心するのはこうしたデモのオーガナイズの良さです。その秘訣は団体のネットワーク力でしょう。地域で反原発運動を展開している団体や、グリーンピースやドイツ環境自然保護連盟(FoEドイツ)などの国際的な環境NGO、Attacなど反グローバリゼーション団体、緑の党などの野党がその時々で集まるだけでなく、それらをコーディネートする役割を担う団体やキャンペーンもたくさんあります。

たとえば反原発のキャンペーンを専門に行う団体.ausgestrahltでは、反原発運動のシンボルである笑う太陽の入った旗やステッカーなどのキャンペーングッズを用意しています。デモの運営は参加者の寄付が頼りですから、グッズはPRだけでなく寄付集めとしても重要な役割を果たしています。また、各地でのデモの企画方法(警察への申請手順やアクションの作り方など)についてアドバイスも行っています。次に、campactはキャンペーンやアクションをオーガナイズする専門の団体という意味でとても特殊です。campact自体は独自の活動分野や専門性を持たず、キャンペーンやアクションのみを組織します。「公正で持続可能な環境と平和な社会」をめざすというポジションに則って、農業政策や原子力、遺伝子組換え作物、気候変動問題などの分野で、必要なタイミングでオンライン署名やサイバーアクション、請願、デモなどを素早くオーガナイズします。スタッフが揃いも揃って若いのもこうした臨機応変なオーガナイズを可能としているのでしょう。環境や人権など専門的な知識を持つ団体がパートナーにいてアクションの妥当性を判断できるということももちろん重要です。あるテーマで一度サイバーアクションなどに参加すると、次回同じテーマでデモやキャンペーンを行う際にメールで情報が送られてきますので、市民は継続的に情報が得られ、団体としてもアクションの参加者が確保できるわけです。このような団体がこれから日本でも必要となってくるのではないでしょうか。

オーガナイズの手腕のなかでもとりわけ度肝を抜かれたのが、参加者を集めるための交通の手配です。大きなデモを行う時には主要な都市からは臨時列車が走り、何百台ものチャーターバスが出るのです。私は反G8や反GMOのデモへ参加するのに臨時列車やバスを利用しましたが、通常よりもリーズナブルに移動できますし乗り換えの必要もないので便利でした。ここまでされると、ちょっと遠いからなぁとためらわれる場所でも参加する気になります。特に4月の人間の鎖デモでは各地点にまんべんなく人が必要ということもあってかなり綿密に計画されたそうです。ベルリンやハンブルクなどの大都市から臨時列車を走らせ、その他各地から240本のチャーターバスで124ヶ所のポイントに人を配置することで、住民の少ない地域でも無事に人間の鎖をつなげることができたといいます。

キャスクという使用済み燃料の入った容器を輸送する際にも、輸送ルート各地で必ずデモが起きています。ドイツは日本同様フランスに使用済み燃料の処理を委託していますが、NGOはドイツの中間貯蔵施設に返送される予定を嗅ぎつけて(※日程が公表されないため)抗議デモを企画します。輸送は鉄道網を用いるのでそれを阻止するために線路に座り込んだり体を縛りつけたりして輸送を遅らせるのです。そうした性質のものですから子連れで参加したことはないのですが、警官隊への対応など事前講習もあるといいます。日本でも今回の福島事故でフランスからの使用済み燃料輸送が延期されたことが発表されましたが、このことがなければ市民の大半は輸送が行われる事実を知らなかったのではないでしょうか。

このようにデモは抗議の場としてだけでなく、市民教育の場としても機能しています。原子力発電所で生み出された核廃棄物のゆくえや、その輸送がどうやって行われるか、どこに中間貯蔵施設があり周辺住民にどのような影響があるのか、最終貯蔵地が決まらないのはなぜなのか、そうした背景情報を知るきっかけや考える機会が得られるのです。こうして原子力発電の問題がローカルな問題に留まらず、国民ひとりひとりの問題となるのです。

ここにきて東電前や京都でのデモのことがドイツにも伝わってきました。ドイツの大手メディアも500人のデモを日本にしては大きなデモとして取り上げ、NGOも日本から反原発運動グッズの発注があったことや抗議運動の芽が育ってきていることを紹介しています。一縷の希望です。デモが馴染まなければパレードでもフェスティバルでもまったく別のかたちでもいい。絶対に起きてはならない事故が起きてしまった今、そして統一地方選挙を控えたこのタイミングで、市民ひとりひとりの具体的な行動が求められています。

問題意識は持っていても行動の仕方がわからない市民が日本にはたくさんいます。普通のことだと思います。それをかみ砕いて伝えるのはNGOの役割です。NGOは今すべきことはたくさんあるでしょうが、そこにもっと力を入れてほしいというのが私の心からの願いです。ひとつひとつのNGOが力をつけていく時間はありません。ぜひネットワークをつないで、それぞれの団体が持ち味を生かし、個人が参加しやすい体制を整え、みんなで大きく世論を動かしていってほしいと思います。チャンスは今であり、今しかありません。ドイツでは個人でできる脱原発運動が広まりつつあります。(月刊誌『グローバルネット』2010年11月号に書いた記事を地球・人間環境フォーラムの許可を得て私のブログに転載させていただいたものです。詳しくはこちら)

こうした原発のないオルタナティブな未来が描けるのだということをぜひ日本の皆さんにも知っていただきたい。私は私で、日本とつながったドイツの地で行動しつづけます。次は来たる4月25日にチェルノブイリ事故後25年を記念したデモに加わっていることでしょう。

ドイツで再燃する反原発運動の今