市民活動の未来を拓くセミナー第2回「仲間を増やした事例」報告 その1 | 認定NPO法人 環境市民

市民活動の未来を拓くセミナー第2回「仲間を増やした事例」報告 その1

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

「市民活動の未来を拓くセミナー」全3回実施

第2回のテーマは、「仲間を増やした事例」

市民活動を実践している人から、「新たな仲間が得られず、活動メンバーが固定・高齢化している」という声をよく聞きます。市民活動の未来を拓くセミナー第2回のテーマは、「仲間を増やした事例」。2012年10月15日(月)、13時から16時30分まで京エコロジーセンター(京都市伏見区藤森)で開催しました。

事例報告者と、それぞれのテーマは下記の通り。
◇赤ちゃんからのESDとよなか 上村有里さん
外出しにくい乳児連れのお母さんでも参加できる活動の場づくり、条件づくり
◇NPO法人 すいた環境学習協会 理事長 石橋修作さん
行政と協力して「新しいシニア」を、新たな仲間にしていった経験
◇NPO高知市民会議 内田洋子さん(とさっ子タウン実行委員)
学生を巻き込み、次代のリーダーに育てるためのプロセス・原則

※今回、上村有里さんと石橋修作さんの報告を掲載します。内田洋子さんの報告は、次回ブログで紹介します。

赤ちゃんからのESDとよなか 上村有里さんの報告
 

(報告者 堀 孝弘)
背景ときっかけ
背景の問題意識として、ニュータウンなど新しいまちをかかえる豊中でのお母さんたちの孤立があげられる。高等教育を受けている人も多く、子どもができて社会から遮断されるのではなく、社会とのつながりを広げてもらいたいとの思いがあった。
きっかけは、豊中市が実施していたESDとよなかの講座に集っていた20人ほどの人たち、もともと図書館によく出入りしていた人たちでもある。2006年、この20人の人たちと、赤ちゃんからのESDの事業がスタートした。子育て世代の活動は、3年が限度と言われることが多い。赤ちゃんからのESDとよなかは、現在まで7年活動を続けている。

活動の特徴
赤ちゃんからのESDとよなかは、狭い意味での「子育てを学ぶ」のではなく、子どもを取り巻く環境を広い視野から学ぶとともに、学ぶだけでなく、いっしょに参加できることを大切にしてきた。講座で学ぶ際、託児を用意するのは当然だが、別室で子どもたちを分け、お母さんだけ学ぶのではなく、同じ部屋で子どもたちも遊びながら、お母さんも学ぶ場を提供している。講師もそういった環境での講義を理解してくれる人を選定した。
野外活動にしても、赤ちゃんを連れて参加できる活動をデザインした。それだけでなく、地域社会に貢献できる活動、例えば、自分たちのような赤ちゃん連れのお母さんが外出する際、楽しめる場所、危険な場所などを自分たちの目と足で調べ、子育て支援とまちづくり、環境問題の改善に貢献できる場を提供していた。

困難とその克服
ところが活動開始から3年目でメンバーがいなくなった。転居、就職、幼稚園の役職に就くなどのことが重なった。冒頭のように、ここで停滞したり、解散する団体もあるが、私たちの団体の場合、これまでの3年の実績があり、それにより他の団体から「いっしょにやろう」と声がかかるようになった。
他団体との協働では、公民館からの事業委託もあった。「費用と場所を提供するので、プログラムの企画と運営をしてほしい」などである。地縁団体との連携も行政が協力してくれた。子どもがいる人たちだけでなく、シニアにもアプローチをした。他の年代と交流することで、それぞれが抱えている問題も見えてきた。シニアが困っていることもわかる。
また、困っているときに助けてくれるのは、世代を超えた地域であることもわかった。もちろん、いつも一緒は大変。必要なときに、お互い助け合える関係が必要。

(本報告から得られる教訓、感想)
赤ちゃんのいるお母さんを対象にした講座やセミナーは他にも多くあるが、上村さんの活動との特徴として、以下をあげることができる。
・「子育て」に限定せず、まちづくりや環境問題なども含め、子どもたちを取り巻く環境を広くとらえた学びの場を提供。
・学びの場は、屋内での学習であれば、託児を別室にせず、子どもと一緒に参加できるようにしている。野外活動でもベビーカーを押して参加できる内容など、工夫されている。
・お母さんたちが社会的意義を感じる活動を企画・実施、など。
赤ちゃんを抱え、地域から孤立しがちなお母さんは多くいるが、豊中市はニュータウンもあり、そのような傾向がより強いと思われる。子育ての悩みをもつ人は多いが、もともと仕事のキャリアを積んできた人や高等教育を受けた人にとって、社会的な役割を「子育てだけ」に限定されることに抵抗感を持つ人も多い。上村さんたちの活動は、お母さんたちの交流の場だけでなく、無理なく楽しく参加でき、かつ社会的意義のある活動を企画・実践したことで、地域のお母さんたち要求に合致するものになったと思われる。
また、シニアをはじめ他世代との交流は、若いお母さんを対象とした活動であっても、継続的な活動基盤をつくるのに必要であることなど、気付かされることが多くあった。

 

 ◇ NPO法人 すいた環境学習協会 理事長 石橋修作さん
 

行政と協力して「新しいシニア」を、新たな仲間にしていった経験

■すいた環境学習協会設立の経緯
2002年11月、吹田市が「すいたシニア環境大学(SGC)」を設立。その卒業生らを中核に翌年8月、「環境(エコ)の語り部会」が設立され、さらに翌2004年4月「すいた環境学習協会(SELF)が設立された。すいた環境学習協会(SELF) は、すいたシニア環境大学(SGC)の第1期卒業生1から10期生で構成されている。以降NPO法人格を取得し、多くの表彰を受けている。会員数は、年ごとに逓増を続け、現在約170名。会員は5つの組(みどり組、まち組、ちきゅう組、そら組、もったいない組)、4つクラブ(すいた里山クラブ すいたエコクラフトクラブ すいたビオトープクラブ、食育クラブ)で活躍している。

NPO法人すいた環境学習協会(SELF⇒Suita Environment Learning Association for the Future. )http://www.npo-self.com/

すいたシニア環境大学(SGC ⇒Suita Green College.)
http://www.npo-self.com/sgc.html

 

■すいたシニア環境大学の特徴
すいたシニア環境大学(SGC)は、事務局を吹田市環境部環境政策室に置き、運営を「すいた環境学習協会(SELF)」に委託。市は運営方針を提示し、それに基づきカリキュラムを構築している。以下は、すいたシニア環境大学の特徴
1 入学資格は吹田市内在住・在勤の55歳以上。
2 受講料は無料
3 授業は年20回(6月開講 2月修了)
4 カリキュラムは総合的な環境分野と、体験学習 実践につながる内容で構成。(座学と野外実習)
5 修学旅行(「あなたが市長」で研究発表)、自主企画講座実施
6 卒業後は「語り部」に認定、NPO法人すいた環境学習協会(SELF)などNPOに加入
7 卒業者には「市民や市内学校に於ける環境学習支援活動」や「環境保全活動」での活躍を期待。

■すいたシニア環境大学運営で苦労していることと、その対応
1 環境に関する知識や活動経験が豊富な人と、 そうでない人が混在している。
これら対しては、班分けをし、担当スタッフを決め、自信を失わないようにフォローしている。
2 運営への不満を訴える人がいる。
対応できる改善はするが、運営はすいたシニア環境大学(SGC)の卒業生がボランティアで行っていることを理解してもらうとともに、「お客さん意識」から脱却してもらっている。
3 卒業後、活動をしたくないという人もいる。
すいた環境学習協会(SELF)の活動の楽しさを伝えるとともに、全講座終了後 進路説明会を行い、理解を深めてもらっている。成果として、特に強制はしないが、過去ほぼ全員がすいた環境学習協会(SELF)に入会してくれている。
4 グループ活動が苦手な人もいる。
班単位で作業するワークショップをできるだけ取り入れる。なかでも「修学旅行」を実施し、そのなかで「あなたが市長(あなたが市長なら、どのような政策を実現したいか)」をテーマに、グループでの発表に向け夏休み前から班活動を展開。これらにより受講者の仲間意識が高まっている。

 

■すいたシニア環境大学運営で自慢できること
1 学生の出席率の高さと熱心さ
出席率は90~100%を維持。学生は大変熱心。
2 卒業後の活動に結びつく内容
修学旅行で「あなたが市長」という研究発表を実施したり、学生が自ら講座を運営する自主企画講座など、参加型講座を取り入れ、卒業後の活動に役立っている。
3 「あなたが市長」の発表内容のレベルが高い。
発表は、市事務局に講評をもらうが、毎年評価が高い。
4 学校としての歴史を確立
自己紹介集(写真入り)、夏休み宿題読書感想文集、卒業アルバムを毎年発行している。
5 卒業生の仲がよく絆が強い。
卒業後も同期会を年数回行うなど強い絆で結ばれている。
6 運営スタッフのモチベーションが非常に高い。

■運営上・心がけていること
・現役時代、様々な部門で活躍された、人生の達人であることを尊重。
個性豊かなシニア集団の調整は大変な面もある。
・全員卒業を目指し、指導誘導している。
卒業単位不足者は、オプション講座で救済するなどの対応をしている。
・学生を、お客様扱いしない。
次年度以降の担い手になってもらうため、「お客さん」として接しない。
・レベルの高い講座が目標(カルチャー教室ではない)
・友達つくりの場を提供する。
社会人になり、時が経つと共に、親しい友達作りは難しい。講座を通して、期ごと、班ごと、女子会、等親睦会が自然発生的に作られている。

 

■すいた環境学習協会(SELF)の仲間が増え続ける要因
1 すいたシニア環境大学(SGC)に応募される方々は、環境について勉強する意欲が高く、リタイア後社会貢献を通して地域や社会に御返ししたいとの思いが強い。その方法を模索する中、SGCに出会って生き甲斐を見つけた。
2 すいたシニア環境大学(SGC)の全20講座中、SELF各組・クラブが担当する講座が8講座あり、講座を通じ、すいた環境学習協会(SELF)の活動内容の理解が深まり、先輩諸氏の意気込みを感じ共感する方が多い。
3 苦楽を共にしたすいたシニア環境大学(SGC)で、1年間学んだ絆は強く、卒業後バラバラになるのではなく、すいた環境学習協会(SELF)でまた同じ仲間として活動したいと思う人が多い。
4 すいた環境学習協会(SELF)の活動内容は幅広く、第二第三の人生を有意義に過ごす場所を見つける事が出来た人が多い。

(本報告から得られる教訓、感想)
石橋さんの報告では、すいた環境学習協会が、すいたシニア環境大学を通じて、仲間を増やしている理由をうまくまとめてくださっている。そのなかで、ポイントとして感じたことだけ抜き出したい。
■市からの委託、校長が市長ということの安心感
すいたシニア環境大学は吹田市から委託を受け運営しているが、校長が市長ということで、応募者に安心感を持ってもらえる。
■応募および受講へのモチベーションを高めている。
応募者をすべて受け入れるのではなく、小論文を書いてもらい、選考・選抜している。学生がモチベーションを持って参加してくれるよう工夫と配慮がなされている。
■かつての受講者(卒業生)が運営
他市にも、行政が主催するシニア向け「学校」はあるが、かつての受講者が運営していることで、新規学生を「仲間」にしやすい。
■現役時代の肩書きをはずしたつきあいの場づくり
現役時、社会的地位の高かった人に対して、そのプライドを尊重しながらも、肩書きをはずしてもらうことに工夫をしている。
・実践の場がある。→ 子ども向け環境教育など、肩書きが通用しない分野・領域もある。
・見本がある。→ かつての肩書きをはずして、がんばっている人たちがいる。肩書きをはずした方が、豊かなシニアライフを送ることができることを示す。
■「社会に貢献したい」というシニアの要求に応えた内容
趣味・教養にかぎらず、社会的意義が感じられる内容を目指している。そのことが、シニアライフの生き甲斐と、社会に恩返しをする場を見つけたいという思いと合致。
■学生間の仲間意識を高め、友達づくりの環境づくり
学生を班分けし、協同作業などをしてもらうことや、卒業して地域で活動している先輩らとの交流など、様々な工夫がなされている。

行政が関係するシニア対象の講座や活動は、各地で多く実践されているが、維持・運営に腐心している姿を見ることが多い。今後ますます増えるシニア層が、「現役世代からお世話を受ける人たち」になるのか、「社会に貢献する層」となるのか、大きな違いである。すいたシニア環境大学の事例は、市民活動の活性だけでなく、高齢化社会にどのような対応が必要か、好事例となると思われる。