「食と環境の問題」もっと知りたい人のために! 第1回 食料自給率について | 認定NPO法人 環境市民

「食と環境の問題」もっと知りたい人のために! 第1回 食料自給率について

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

食と環境問題、もっと知りたい人のために

第1回 先進国は食料自給率が低くて良いわけではない。

《先進国は工業製品をつくり、食料は途上国から買えば良いの…?》

よく知られているように、日本の食料自給率は40%(カロリーベース)しかありません。しかしながら「先進国は工業製品をつくり、食料は途上国から買えば良い」と考えている人も多いと思います。経済学者のなかにもそのように主張する人がいますが、果たしてどうでしょうか。

 

《食料自給率の低下は先進国共通ではない》

図1を見てもらうと、日本の食料自給率は1960年頃80%ありましたが、その後ほぼ一直線に低下しているのがわかります。アメリカやフランス、ここには掲示していませんがオーストラリアやカナダなど、国土が広い国や農業を主要産業に位置づけている国の自給率の高さは、特に意外でもないと思いますが、ドイツ、イタリア、イギリスなど日本と同じぐらいの国土の国々の食料自給率に注目してください。特にイギリスなど、1960年頃、40%程度しかなかった自給率が、1980年から1999年にかけて、7080%にまで向上しています。ドイツも60%台だったものが、一時100%に達するまで自給率を向上させています。

さすがにEUの統合以降、自給率の維持に苦戦していますが、このグラフを見ると、先進国だから食料自給率が低くて良いなど、決して世界共通の考えでないことに気付いてもらえると思います。

図1

 

《純輸入金額でみても世界一》

日本の食料自給率の低さはよく知られていますが、食料輸入に要するお金を他国と比べてみるとどうなるでしょうか。図2は、おもな国の食料純輸入額を比較したものです。純輸入とは輸入から輸出を差し引いたものです。輸入だけではドイツの方が日本より多いのですが、ドイツは周辺国への輸出も多く、差し引いた純輸入額では日本よりずっと少なくなります。一方、日本の輸出はわずかしかなく、輸出を差し引いた純輸入額ではダントツの1番になります(年間3兆円以上)。

2位以下は、年によって大きく変動します。ドイツがくることもあれば、天候によってはロシアがくることもあります。また、中国が2004年を転機に食料輸出より輸入の方が多くなり、以降じわじわとランクをあげています。しかし日本の1位は不動です。何年さかのぼれるか調べられていませんが、おそらく30年以上は1位に君臨していることでしょう。

 


図2

 

 

《今後、世界はより多くの食料を必要とする》

201110月、国連は、世界の人口が推計で70億人に達したと発表しました。日本の人口は今後減少していくと予想されていますが、世界の人口は2025には80億人2050年には93億人に増加すると予測されています。

当然必要な食料も増加します。農林水産省資料*によれば、1994年、世界の穀物生産と消費量は178200万トンでしたが、2025年の世界の穀物生産と消費量として、291400万トン必要になるとの予測があります。問題はその内訳です。先進国と途上国の消費と生産の内訳を1994年の実績と、2025年の予測の内訳を見ることにしましょう。

  

図3

《いつまでも、今まで通り海外から食料を購入できない》

図3の数値を見れば、「途上国が先進国の食料を支えている」のではなく、実態は逆で、先進国が途上国の食料を支えていることがおわかりいただけると思います。この傾向は、今後むしろ拡大すると予測されています。「先進国は工業製品を輸出し、途上国から食料を購入するのが最適」との考えは、実態と噛み合っていませんし、持続できることでもないのです。

途上国もいつまでも途上国とは限りません。安い労働力に注目し途上国に工場移転を進めているのは、他でもない先進国です。その結果、少し前まで「途上国」と呼ばれていた国・地域が「新興国」と呼ばれるようになり、著しい工業化のなかで、かつての日本と同じように農民が都市に吸収され、農地が宅地や工業用地に転用されていきます…。そうなれば他国に食料を輸出するどころか、そのような国・地域も食料を海外に求めるようになります。2004年を転機に中国の食料輸入が輸出を上回り、以降じわじわと輸入額が多くなっているのは、そのひとつの典型といえます。

食料を求める国・地域が増えるならば、今は日本に食料を輸出しているアメリカやオーストラリア、カナダなども、いつまで日本に輸出してくれるとは限りません。

 

《今回のまとめ・ふりかえり》

・先進国はすべて食料自給率が低いわけでなく、多くの先進国が、食料自給率の維持・向上に努めている。

・日本の食料輸入額は、輸出を引いた純輸入額で3兆円強。世界一。

・現状、先進国が世界の食料を支えていて、その分担は今後ますます大きくなる。

・途上国も工業化が進めば、海外に食料を求めるようになる。

 

第1回 先進国は食料自給率が低くて良いわけではない。以上

 

 

次回以降下記のテーマを取り上げます。

食べ物ごみの実態と私たちにできること

旬の野菜利用の省エネ効果

近くで穫れたものを選ぶことのメリット

食料輸入と世界の水問題