ダーバン会議終わった。どうする温暖化防止 | 認定NPO法人 環境市民

ダーバン会議終わった。どうする温暖化防止

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

ダーバン会議終わった。どうする温暖化防止

ほとんど関心を得られなかったダーバン会議

2012年12月、南アフリカ・ダーバンで開催されたCOP17は、終了日こそ、合意内容がニュースになっていましたが、ほとんど世間の関心を集めないまま終了しました。
合意内容としては、2020年までに、アメリカや中国、その他の新興工業国や途上国を交えた新枠組みをスタートさせるというもので、具体的内容は、2012年、カタールのドーハで開催されるCOP18で討議されることになっています。
2013年以降の京都議定書の延長について、日本政府は「単純な延長に反対」との立場を貫き、削減義務を負う京都議定書第2約束期間の目標設定に動きだしたEU諸国と際立った違いが見られました。

 

でも、もう何もしなくてよいわけではない

このままでは、2013年以降、日本は国際的な削減義務を負わない「空白期間」に入るわけで、2020年までにスタートさせる新枠組みまで、「自主目標」だけしかないことになります。その「自主目標」として、2009年当時の鳩山首相が打ち出した「2020年までに25%減」も、2011年12月22日、審議中の地球温暖化対策基本法案から、民主党がこの目標を削除して再提出する方針であることが報道などで明らかになりました。
  ただ、2012年までは世界と約束した削減目標があります。二酸化炭素(以下、CO2)をはじめとした温室効果ガスの排出量を、2008年から2012年までの平均で、1990年比で6パーセント減らさないといけません。この目標は誠実に履行しないといけませんが、実施状況がどうか、それをふりかえりたいと思います。

 

日本の温室効果ガスの排出状況

下に、CO2を含む6種の温室効果ガスの排出量総計の直近10年の推移を示します(CO2換算)*1。2007年にピークがありますが、2002年以降ほぼ横ばいで推移しています。グラフでは赤い実線で表現しています。青い実線はCO2だけの排出量で、こちらは2007年のピークに至るまで、じわじわと増えていたことがわかります。
  そして2008年にかけて大きく排出量が減っていることがわかります。2007年、当時の安倍首相の「美しい星50」構想で国民にコマメな節電を呼びかけましたが、その成果でしょうか*2。もちろん、そのようなものではなく、リーマンショックに端を発した世界的な金融恐慌と不況によってもたらされた排出量の減少です。
再生可能エネルギーの普及や、社会をあげたエネルギー効率の向上による成果ではなく、不況による減少であるところがなんとも悲しいです。

 

 

1990年基準値 126130万トン

基準値の6%減 118562万トン

温室効果ガス6種の排出量合計(CO2換算)

2001131700万トン

2002134900万トン

2003135280万トン

2004134870万トン

2005135130万トン

2006133330万トン

2007136480万トン

2008128050万トン

200912 870万トン

2010125610万トン

 

 

不況や災害でしか排出量を減らせないのは政治の責任

「1990年を基準に6パーセントの削減」という目標がありながら、むしろ1990年より増えてしまっていた排出量が、2009年初めて1990年レベルを下回りました。1990年の排出量を下回ったとはいえ、目標はまだそれより2000万トン以上低い値です。この「目標」に達しないまま、2010年再び排出量が増加しました(2010年は2011年4月に発表された速報値)。
  2011年は、大震災の影響で大きく減少していることと思われますが、不況や災害でしか排出量が減らないというのは、歴代政権の失政といわざるを得ないでしょう。

 

世界との約束を果たす「最後の手」

京都議定書では、2008年から2012年までの第1約束期間の平均で、1990年比6%減らさないといけないことになっています。削減の方法として、国内の排出削減だけでなく、「森林に吸収させる」「途上国の排出削減に協力する」「目標以上に排出を減らした国から排出権を買う」などの方法も認められています。
このうち「外国から排出権を買う」は、最後の手段とも言うべきものですが、日本政府は6%のうち、1.6%分約1億トンをこれによってまかなうことにしています。特に重化学工業が低迷して排出枠に余裕が生まれた東欧諸国がターゲットとなりました。ここまでの報道等によると、下記の国々から排出権購入の契約をとりつけています。 

 

 

・ハンガリー

20071126日共同通信報道などより

・ウクライナから3,000万トン

2009318日政府発表
(2008年と2009年、1,500万トンずつ)

・チェコから4,000万トン

2009325日ロイター報道などより
(2009年と2010年、2,000万トンずつ)

・ラトビアから150万トン

2009105日政府発表

・ポーランドから400万トン

20101210日 共同通信報道より

その他、三菱商事や丸紅、三井物産などの商社や電力会社も、ロシアやエストニア、ポーランド、ハンガリーなどから排出権を購入しています。

 

これだけのお金があれば…

これらの排出権購入に要する費用は、政府購入分だけでも年間2,000〜3,000億円と言われています。
政府購入分とは、当然ながら元は国民の税金です。約束期間は2008年から2012年まで5年ですので、5年分となれば、1兆円前後になります。これだけのお金が外国に流れ出るわけです。それをもって「京都議定書の延長など、とんでもない。」という人もいます。この6%削減という目標は、国際交渉のなかで合意した政治的なもので、この数字さえ履行できたら、温暖化が食い止められるというものではありませんが、世界との約束であることは強調しておきます*3。問われるべきは京都議定書の効果や問題点より、このような「最後の手段」を使うしか世界との約束を履行できなかった歴代政権の失政ではないでしょうか。
本当にこれだけのお金を、住宅の断熱化や高効率のエネルギー機器の導入補助、太陽光発電機など再生可能エネルギー普及助成などに使うことができれば、新産業の創出や雇用拡大、普及によるコスト削減、さらなる新技術の誘発など、様々な効果があったことでしょう。「外国からの排出権購入」は目標の帳尻あわせにはなっても、国内には何も残りません。

 

ダーバン会議終わった。どうする温暖化防止 以上

 

*1) 6種のガスとは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)の6種。
ガスごとに温室効果が違う。例えばメタン(CH4)は同一重量であれば、CO2と比べ温室効果は21倍大きい(排出係数という)。そのためメタンの排出量を21倍して加算される。他のガスもそれぞれの排出量に排出係数をかけて合計される。「CO2換算」となっているのはこのこと。

*2) 安倍元首相の「美しい星50」構想の問題点については、下記URLを参照してください。

ここが問題!安倍元首相提唱「美しい星50」
https://kankyoshimin.org/modules/cef/index.php?content_id=52

*3) 気になるダーバン どうする温暖化防止 その2「そもそも日本の削減目標は?」 をご参照ください。

https://kankyoshimin.org/modules/blog/index.php?content_id=179