気になるダーバン どうする温暖化防止 その1「異説とのつきあい方」 | 認定NPO法人 環境市民

気になるダーバン どうする温暖化防止 その1「異説とのつきあい方」

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

現在、南アフリカのダーバンで、COP17(気候変動防止枠組条約第17回締約国会議)が開催されています。地球の将来に大きな影響を与える大事な会議です。会議そのもののレポートは他に任せるとして、堀ブログでは、会議の行方を理解するための関連情報を紹介します。
1回目は、今もって「地球温暖化って、人間活動がもたらしたものではない 」とする書籍等が出されていますが、そのような説とどのように向き合えばよいかをテーマにします。

なお本稿は、2008年3月に環境市民より発刊した「低炭素社会、循環社会を築くため、 環境問題の『もうちょっと知りたい』に応えるハンドブック」の1章を転載したものです。

 

気になるダーバン どうする温暖化防止 その1「異説とのつきあい方」

《地球温暖化って、人間活動がもたらしたものではないという説に 影響を受けている人が多くいる》

今でも科学者の中に、「地球温暖化はたしかに進行している。しかし、それは人間活動がもたらしたものではない。無意味な温暖化対策な どせずに、もっと他のことに取り組むべきだ」という人がいます。そのように主張した本も結構売れていますし、そこまで言い切らなくても、「地球温暖化は、 多くの説のひとつに過ぎない」という科学者もいます。

一部の科学者が言っているだけなら、取り上げる必要もないと思いますが、影響を受けている人が多くいます。「地球温暖化って、人間活 動がもたらしたものではない」という説に対して、どのように向き合ったらよいか、考えていきましょう。

 

《世界の科学者は「人為的影響」とほぼ断定している》

2007年11月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル※1)で採択された第4次評価報告書によれば、温暖化が進行していること を「疑う余地がない」と断定したうえで※2、その原因を「人為起源の温室効果ガスが増えたこと」と「ほぼ断定」しています。

IPCCは、その名の通り「政府間の会合」ではありますが、世界の科学者数千人が参加しています。IPCC自体は調査や研究はせず、 地球温暖化(気候変動)に関して公表された様々な分野の研究成果を評価・検討し、将来予測、影響、対策など、政策立案者に向け評価報告書を公表しています。ただし、政策の決定は各国の判断に委ねていて、政策提案は行っていません。1990年10月第2回世界気象会議において、第1次報告を公表して以降、 5〜6年おきに報告を出しています。

※1 Intergovernmental Panel on Climate Change

※2 1906~2005年までの100年間に、世界平均気温が0.74℃上昇

 

《IPCC報告書に見る温暖化への人為的影響の表現》

・第1次評価報告書(1990年) 「地球規模の気候に人間の影響が認められると考えられる。」

・第2次評価報告書(1995年) 「気候に及ぼす人為的効果の寄与について、より説得力のある証拠が近年得られてきている。」

・第3次評価報告書(2001年) 「近年得られた,より確かな事実によると,最近50年間に観測された温暖化のほとんどは,人間活動に起因するものであった可能性が高い (likely)。」

・第4次評価報告書(2007年) 「20 世紀半ば以降に観測された全球平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い(very likely)。」

 

《「ほぼ断定」の意味と重み》

第3次報告書で用いられたlikelyという表現は、「科学的に66〜90%の確実性」を意味し、第4次報告書の「very likely」は「科学的に90〜95%の確実性」を意味しています。様々な分野での研究が進み、観測データの精度が高まるにつれ、IPCCの報告書も、 後のものほどより突っ込んだ表現になっています。この「very likely」という表現が用いられたことで、「ほぼ断定された」と解釈されているわけです。

なかには、「100%でないなら、確定したわけではない」というツッコミを入れる人もありそうですが、2007年11月発表された第 4次評価報告書には、130カ国の450名もの代表執筆者と800名以上の執筆協力者、2,500名もの専門家が関わり、精査や議論にかけた時間も3年に およんでいます。これだけ多くの分野や立場の違う科学者らが集っているわけですから、意見の完全な一致は、なかなか得られません。しかも対象は複雑で壮大 な地球の気候システムです。それでも「ほぼ断定」したということは、かなりの重みをもっていると考えて間違いありません。

 

《「人間活動の影響ではない」という人たちは、どのようなことを言っているの?》

「温暖化は人間活動の影響ではない」という人たちの中には、温暖化そのものを否定する人と、温暖化していること自体は認めても、それ は「人間活動の影響ではなく自然現象」であるとしている人たちがいます。前者については、IPCCの報告書でも「疑う余地がない」と断定されています。後 者の「自然現象だ」としている人たちは、その主要な要因として、地球の公転軌道のゆがみや自転軸の傾きをあげています。

実際に、これまで地球では、寒冷な時期(氷期)と温暖な時期(間氷期)が、およそ10万年周期で繰り返されてきましたが、この変化 は、ミランコビッチサイクルと呼ばれる地球の公転軌道や自転軸の変化が原因であるとされています。そのうえで、CO2の増加は「自然現象としての温暖化の 結果、海水温が上がり、海水中に溶けていたCO2が大気中に放出されたものであり、大気中のCO2の増加で温暖化したというのは、原因と結果を取り違えて いる」と主張しています。

 

《さらには、こんな主張まである》

「温暖化よりも、もっと大切なことがある。」として、以下のような主張もあります。

・CO2にばかり関心がいくようにして、化学物質の乱用から目をそらさせている。

・原子力発電(以降原発)の推進をはじめ、環境ビジネスの拡大のため、人が排出したCO2によって温暖化が引き起こされたことにしてい る。

・さらには、「温暖化の何が悪い。地球は放っておけば寒冷化に向かう。寒冷化すれば植物は育たず食料危機に陥るが、温暖化ならなんとか 育つ」という人までいます。

 

《上記の主張に対して》

・「化学物質の乱用から目をそらさせている」について

日本のPRTR※3法や、2003年EUが公布したRoHS指令※4のように、先進国での化学物質規制は確実に進んでいます。

・「原発推進や環境ビジネスのため」について

IPCCにはドイツやスウェーデンのように脱原発に向けて進んでいる国も参加しています。IPCCの報告書を原発推進に利用しようと する国はありますが、原発推進のためIPCCが報告内容を操作するようなことは考えられません。

・「温暖化より寒冷化が問題」については

現在寒冷化に向かっているという明確な証拠はありません。また、温暖化(気候変動)による食料生産への影響を理解していないものと言 わざるを得ません。

※3 PRTR:Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出移動登録)の略

※4 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律

 

《人為的影響であるという根拠は》

温暖化が人為的影響によることは、世界の科学者が様々な証拠を示しています。最もよく目にするのは、第3次報告書に盛り込まれた気候 シミュレーションです。これによると、1860年以降、過去140年の地球全体の平均気温の変化を自然の影響だけを考慮してコンピューターで再現した場 合、実際の観測結果と1960年以降大きな食い違いを見せますが、自然と人間の影響の双方を考慮した再現は、近年の急激な気温上昇とほぼ一致しま す。

温暖化の人為影響に懐疑的な人は、「コンピューターによるモデル計算は、組み入れるデータや条件によって、どのような結果でも導くこ ともできる」と言っています。しかし、IPCCの第4次報告書では、世界の様々な研究機関によって開発された14の気候モデルから得られた58のシミュ レーションが検証に用いられています※5。結果、自然と人間の影響の双方を考慮した再現と近年の急激な気温上昇との一致は、世界のすべての大陸で共通して 見られることが明らかになりました。

※5 IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 気象庁訳

サムネイルの図の説明 → 1906〜2005年の全世界および各大陸の10年平均地上気温の変化(1901〜1950年の平均値が基準)とモデルシミュレーションの比較。黒線は実 際に観測された変化(観測面積が全体の50パーセント未満の期間は破線)。青帯は、気候モデルを用いた、自然起源の強制力のみを考慮したシミュレーショ ン。また、赤帯は、気候モデルを用いた、自然起源と人為起源の放射強制力を共に考慮したシミュレーション。 2007.3.20 IPCC第4次評価報告書より

 

《モデル計算以外の人為影響の証拠は》

ただ、「大型コンピューターを用いたモデル計算で明らかになった」と言われても、イメージがつかみにくいのは確かです。他に、人為的 影響の証拠として、どのようなものがあるのでしょうか。 様々な証拠があげられていますが、そのなかで以下を紹介します。

・CO2濃度が過去65万年、例をみない

・化石燃料の燃焼によって、大気中の酸素濃度が減っている

・大気中に、『重い炭素』を含んだCO2が増えている

・過去65万年、例をみないCO2濃度

下のURLの図を見ていただくと、過去およそ10万年周期で、CO2濃度が高くなっていることがわかります。

http://www.globalwarmingart.com/wiki/Image:Carbon_Dioxide_400kyr_Rev_png

40万年前から最近までの大気中のCO2濃度の変化。産業革命以降(右端)の極端な上昇がわかります。 出典:Wikipedia

最近では、南極の氷床調査データなどから、かなり正確に過去のCO2濃度を再現できるようになりました。ここから、温暖な時期と氷期が約10万 年周期で繰り返されていることがわかります。このような過去の気候変化は、先に紹介したミランコビッチサイクルで説明がつきます。しかし、産業革命以降、 わずか200年ほどの急激なCO2濃度の上昇は、少なくとも過去65万年間はなかったもので、ミランコビッチサイクルでは説明がつけられません。

 

《化石燃料の燃焼によって、大気中の酸素濃度が減っている》

大気中のCO2濃度の増加の多くが、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料の利用によるものなら、それらの燃焼によって酸素(O2)濃 度は減っているはずです。大気中の酸素濃度を調べ、これが減少していたら、温暖化が人間活動の影響によることが明らかになります。

しかし言うは易し、行うは難し。CO2濃度の年間の増加は1.5〜2ppm程度ですが、産業革命以前の280ppmが、年には世界平 均で379ppmになったのですから大きな変化です。大気中の酸素濃度は、最近の研究で年間3〜4ppm減少しているところがわかってきましたが、酸素は もともと大気中に約21%もあります。3〜4ppmというのは数万分の1程度の減少で、年間これだけわずかな変化を計測することは不可能だと考えられてき ました。しかし、現在では世界の10程度の研究機関により、さまざまな手法で精密観測を行われるようになり、大気中酸素の減少が確認されるようになりまし た※6

※6 国立環境研究所ニュース25巻3号 2006年8月「大気中の酸素濃度の変動から二酸化炭素の行方を探る」より

 

《重い炭素が示す人間の影響》

炭素には、ごく一部「重い炭素」が含まれています。この「重い炭素」の減少も「温暖化が人間活動の影響」の証拠のひとつになっていま す。

その「重い炭素」とはどういうものかと言うと、CO2は、1つの炭素原子と2つの酸素原子でできていますが、原子には、中性子の数が 違う同位体と呼ばれる違ったタイプのものがあります。炭素には3つの同位体があり、その一種が「重い炭素」です。中性子の数が6つの12Cは、「普通の炭 素」で全体の98.93%を占めます。中性子が7つある13Cが「重い炭素」で1.07%。他に、ごく微量の14Cと呼ばれる放射性同位体がありま す。

13Cと呼ばれる重い炭素は、植物や過去の植物から作られた化石燃料では少なく、海中の炭素や、火山または地熱によって排出される炭 素に多く含まれています。大気中のCO2濃度は増えていますが、13Cの相対的な量は減少しています※7。つまり大気中で増えているCO2は、化石燃料の 燃焼と植物の分解によるものであることを示しています。

※7 南極資料(国立極地研究所) Vol.41,No.1 pp.177-190 昭和基地における大気中CO2の炭素同位体比δ13Cと酸素同位体比δ18Oの変化 村山昌平 ら

 

《これからも出てくる異説とのつきあい方》

もちろん、これ以外にも、「温暖化は人間の影響」を示す証拠はありますが、それらについては専門書にまかせるとして、これからも出て くるであろう異説とのつきあい方について考えましょう。いつの時代でも、真実は少数者が気付き、多くの人の目を開かせてくれます。当初は少数者として誤解 や偏見を受けることもあります。有機塩素系農薬による環境破壊を指摘したレイチェル・カーソンにしても、ミランコビッチサイクルを発見したM.ミランコ ビッチ、何より、地球温暖化人為説を最初に警告したジェームズ・ハンセンもそれらの一人です。ですので、異説をまったく排除してしまうことはよくありませ ん。

しかしながら、観測データが揃い始めると、真実は真実として受け入れられるようになります。

「人為かどうか」と言った議論は、研究者の間でなされて、そこでオーソライズされてから一般市民に情報提供されるべきことですが、「地球温暖化が人間活動の影響によるものではない」と唱えている人たちは、心底そのように信じているので、たとえ学会等でオーソライズされなくても、今後もさまざまな説を出されることでしょう。ですが、それを裏付ける 観測データが、「人間の影響である」ことをくつがえすほど出てくる可能性はまずありません。

 

《何より大切なこと》

何より気になるのは、「人間の影響でない」とする説に影響を受けた人たちが、「CO2削減などしても無意味」と言い出し、結果的に資 源エネルギー多消費社会を肯定したり、「何もしない」ことの正当化に「温暖化懐疑説」を利用していることです。

「温暖化が人間の影響」ということが「100%断定」されてから行動していては、手遅れになっていることでしょう。その心配はおおい にありますが、資源の枯渇などを考えても、資源エネルギー浪費社会から、資源エネルギーの利用効率の高い社会へ転換しなければならないのは自明のことで す。将来世代が必要とする資源を未来に残すことは、今の世代の責任であり、地球温暖化防止以前の必須課題です。

 

その1「異説とのつきあい方」以上