原発企業のCSRを考える(東芝の事例から) | 認定NPO法人 環境市民

原発企業のCSRを考える(東芝の事例から)

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

 原発企業のCSRを考える(東芝の事例から)

5月9日、東芝が3月期大幅黒字。今期も増収増益予測との報道がありました。会見では「東芝が関係するすべての分野で復興需要が期待できる」とのコメントもありました。株主から見れば、このような景気のよいニュースは嬉しいことでしょう。ただ、事故を起こした福島第一原子力発電所の2号機と3号機が東芝製であり、今回の原発事故で住む家や土地を追われ、暮らしや生業、将来の夢を奪われた人や、今も不安を抱いている人が多くいることを考えると、このコメントは配慮に欠いたものではないでしょうか。

東芝と今回の原発事故には、どのような関係があるのでしょう。福島第一原発のプラントメーカーを紹介した後、2つの記事を紹介します。
福島第一原発の2号機と6号機は、東芝とジェネラル・エレクトニック(GE)の共同受注で、3号機と5号機は東芝単独受注です。ちなみに1号機はGE、4号機は日立製です。原子炉の格納容器は、1号機から5号機までマーク1型というタイプで、マーク1型格納容器については、元GEのエンジニア(プロジェクトマネージャー)でマーク1の設計にあたったデール・ブライデンボー氏が、AERA5月15日臨時増刊号に「マーク1に問題あり」という記事を書いています。
記事によると、ブライデンボー氏はマーク1の構造上の問題に気づき、マーク1の製造中止と必要な追加的改良のために奔走されたそうです。記事のなかで「福島第一原発は日本のエンジニアリング会社が造りましたが、マーク1の構造が事故の発端だったことは間違いない。マーク1の冷却システムは限定的な容量しかないため、緊急時の電力供給が途切れると冷却し続けることができなくなり、爆発が起こるのです。」と記されています。

もうひとつ他の記事を紹介します。
朝日新聞6月11日夕刊第1面に、「ハリケーン対策、地下に発電機 原発『米国式設計』誤算」と題した記事が掲載されていました。少し長くなりますが、全文引用します。

東京電力福島第一原発が40年前、竜巻とハリケーンに備えて非常用発電機を地下に置く「米国式設計」をそのまま採用したため、事故の被害が大きくなったことが関係者の証言でわかった。原発は10m以上の津波に襲われて水につかり、あっけなく電源を失った。
風速100mに達する暴風が原発に襲いかかる。周辺の大木が根こそぎ吹き飛ばされ、ミサイルのように建屋の壁を突き破り、非常用電源を破壊する…
1980年代初頭、米国ではこんな悪夢のシナリオを想定して原発の災害対策が練られた。東電初の原発だった福島第一の1号機はジェネラル・エレクトリック(GE)など米国企業が工事を仕切った。「東電は運転開始のキーをひねるだけ」で、技術的課題は丸投げだったという。
東芝や日立など国産メーカーの役割が増した2号機以降の設計も、ほぼ1号機を踏襲。福島第一原発1号機〜6号機の非常用電源13台のうち、主要10台が地下1階に集中。水損を免れたのは、6号機の1階にあった1台だけだった。米国式は国内の他の原発にも踏襲されている。菅直人首相が運転停止を要請した中部電力浜岡原発も非常用電源が建屋の1階にあるため、同社は建屋の屋上に発電機を増設した。(山岸一生) 引用ここまで。

福島第一原発は海岸のすぐ近くにあり、しかも原発より海側に非常用電源や燃料タンクを並べ、かつ非常用発電機が地下に設置されていた…。これで「安全だ」とどうして言えたのか多くの人は疑問に思うことでしょう。発電所を運営していた東京電力だけでなく、設計・施工に携わった東芝にも、社会の関心や疑問に正面から向き合う責任があるでしょう。

東芝のWEBサイト(ホームページ)のCRS(企業の社会的責任)のページには、震災被災者全般へのお見舞いメッセージに続いて、「東日本大震災に関する当社グループの活動および東芝製品の節電方法などの情報」が掲示されています。3月の震災発生以降出された一連のメッセージのなかで、「被災地支援に震災当初に義援金5億円相当の支援を決定しましたが、さらに5億円を追加し、総額で10億円規模」とすることをはじめ、様々な支援活動が紹介されています。また原発事故についても、専門家チームをつくり、東京電力や政府の要請に応じて、技術支援をしていることなどが紹介しています。そのこと自体は1企業として大変な努力であると思います。
しかしながら、原発事故へのコメントや原発事故被害者へのメッセージは見当たらず、これを読むかぎり、「当社は良いことだけをしています」と言っているように感じます。CRSが企業広告と根本的に違うのは、社会やステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションが重要であり、これが基本に据えられることです。原発事故で苦しみ、不安に思っている人も東芝にとってはステークホルダーではないでしょうか。この人たちの疑問や関心に応えることが必要であり、自社にとって都合の良いことだけを伝えるのは、インフォメーションではあってもコミュニケーションではありません。東芝が「CSR」と表現しているものは、成熟したものではなく、社会貢献の域にとどまっています。
東芝の株主の皆さんにお願いします。「今年は配当が減っても、被災地と原発被害者への支援に力を注いでくれ」と、ぜひ、声をあげてください。

 

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東芝、2011年3月期の当期純利益は1378億円の黒字転換・今期も増収増益予想
2011年5月9日(月)15時39分配信 niftyニュース

東芝 が5月9日付けで発表した2011年3月期の連結決算(米国会計基準)は、売上高が前期比1.7%増の6兆3985億円、営業利益が同91.8%増の2402億円、税引前当期純利益が同468.2%増の1955億円で当期純利益は1378億円(前期は197億円の赤字)の黒字転換となった。
当期純利益はリーマンショック前の2007年の水準に戻ったことになる。
世界経済の回復基調が続いたことに加えて、事業構造を堅固なものとするために集中と選択を進める構造改革を進めたことが同期の業績改善に寄与した。
今期については売上高が前の期に比べて9.4%増の7兆円で、当期純利益は同1.6%増の1400億円を見込む。

東日本大震災に伴う当社の対応について(4月18日現在)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2011_04/pr_j1801.htm
http://211.6.211.247/tdnet/data/20110418/140120110418092823.pdf