5 行政セクターに求められること | 認定NPO法人 環境市民

5 行政セクターに求められること

杦本育生(環境市民代表理事)

5 行政セクターに求められること

行政セクターが真にパートナーシップを求めるのであれば、「要件」及び「失敗分析」で述べたことを踏まえるとともに、現在の状況において求められることがある。

(1) ポジティヴ思考

行政の仕事は堅実であることが求められる。それゆえ前例が重んじられ、前例のない事業に関しては、慎重というより消極的な対応になりがちである。新しい事業は、実際に効果があるかうまく運営できるか等について不安がある。その不安ゆえに、考えられるいくつかの障害をできないという理由におきかえて、新しい事業を取り組まないというネガティヴな思考が地方行政においてまだ多く見られる。しかしパートナーシップ活動はほとんどが新規であり、またパートナーシップという形態そのものも従来の行政手法とは大きくことなるものである。もし従来の思考形態のままパートナーシップ活動を行うならば、行政の対応はパートナーシップの要件をはずれた表面的なものとなり失敗する確立が非常に高い。いま、パートナーシップで求められている活動を行っていくには、考えられる障害を事業には当然ありうるものとして、それをどのように乗り越えまた潰すことができ、目指すべき効果をあげていくのかというポジティヴな思考、また最大限努力した中での失敗は、よりよいパートナーシップ活動のジャンピングボードになりうるという考え方への転換が必要である。

(2) 全庁的な対応

地球環境調和型のライフスタイル形成を築いていくためには、消費生活セクションや環境セクションにとどまらす行政の全セクションが関連してくる。都市計画、土木セクションはまちづくりの中で、産業セクションは産業振興をエコロジーと調和した形で、教育委員会は学校、生涯教育の中に環境教育が、それぞれ重要な要素として捉えられるのは明白である。それだけではなく、観光セクションはエコツーリズムを、福祉セクションはバリアフリーとエコロジーを併せたまちづくりや老人福祉と環境調和型のライフスタイル形成を併せることなど、大きな関連をもってくる。また地域全体としてグリーンコンシューマー、グリーン購入活動を展開するならば、行政の中で関連しないセクションはひとつもない。
その中で予算セクションの関連は重要である。地球環境調和型のライフスタイル形成をパートナーシップで行う場合、ほとんどの事業は新規事業である。この多くの自治体が緊縮財政を強いられている現状からいえば、予算をつけることが難しくなるものが多い。しかし行政事業の中にはマンネリに陥っているものや効果が当初期待していたものよりも落ちてきているものも意外に多くあると考えられる。このような事業を縮小、カットすることにより、新規事業にまわせるものがでてくる。また最近、国の事業としてパートナーシップ型で環境の課題に取り組む制度も各省庁からかなり生まれている。このような制度をうまく活用ことも重要である。また、市民セクターや企業セクターが自治体とパートナーシップを組む活動内容は、行政の一つのセクションでとどまらない場合もかなりある。そのようなとき「その活動内容はわがセクションではないのでできません」というような行政側の理由は説得力のあるものではない。できるかぎり横断的な取組ができるように柔軟な対応が必要である。そのためには首長などトップマネージメントクラスの従来の枠組みに囚われない決断も必要であろう。

(3) 市民セクターが育つために

日本では、また戦前に強い中央集権で市民の自治的活動を制限したこと、民主主義社会の歴史が浅く、また戦後復興から経済大国になってくいく過程において、前述したように「公共」のしごとを行政任せにしてしまったこと、などにより市民セクターを代表して活動できるNGOがまだあまり多くない。芽のある団体はかなりでてきてはいるが、まだ活動資金など基礎体力が乏しいのが通例である。行政セクターがNGOを育成するという考え方は望ましいものではないが、NGOが自主的に育つことを支援することは重要であろう。
その一つの手法としては、自主的な市民活動への助成制度がある。すでにあるていどの自治体で実施されているが、市民団体、NGOが具体的な活動プロジェクトを提案し、その費用の一定割合(1/2から2/3程度が多い)を自治体が助成し、活動報告と会計報告を自治体に提出するシステムが通例である。地域で活動する市民団体やNGOにとっては、例え10万円程度の助成であっても、それによって活動に弾みが付く場合も多く、有効な手段である。ただこのような助成制度はプロジェクトそのものに限定して出される場合が多い。つまりプロジェクトを行う団体の基礎的な運営経費、人件費は対象になっていないが、NGO、市民団体の多くはこのような経費捻出に悩んでおり、今後柔軟な対応が求められている。
もう一つの手法は、パートナーシップ活動そのものである。パートナーシップ活動で市民団体、NGOと対等につきあい、適切な事業遂行分担を行うことにより、その団体の能力と経験の向上につながる。また活動に伴う資金を行政等から委託することによって団体の資金的側面の支援にもつながる。委託費の中に事務運営費や人件費を含めることに疑問をもつ行政もあるが、事業をコンサルタント会社等に委託するときは当然のごとくそのような費用は含まれていることを考えればなんら不思議なことはない。

経済企画庁国民生活局編集「パートナーシップでつくる環境調和型ライフスタイル」(1999年発行)、第4章 市民(市民活動団体)、企業、行政の連携に向けて 「2.市民活動と行政、企業とのパートナーシップ(環境市民 本育生)」(88ページ)から引用

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