3 ドイツの環境首都を往く | 認定NPO法人 環境市民

3 ドイツの環境首都を往く

3.1 はじめに

さて、ドイツで環境首都になった自治体ではどのような施策が採られていたのであろうか。日本に紹介されることの多いフライブルク市等ではなく、エッカーンフェルデ市とハム市の事例をいくつか抜粋する。

3.2 エッカーンフェルデ市の中心街

エッカーンフェルデ市のメインストリート、キール通りは朝から日暮れまで人通りが絶えない。クルマが入らない中心市街地では、乳母車を押して買い物や散歩をする若い夫婦を頻繁に見かける。車椅子の人もごく普通にカフェでコーヒーを飲み、買い物をしている。この町の人口は23000人、観光客も含めればもう少し多くなるが、果たしてこの規模の日本の町でメインストリートがこれほど賑わっているところがあるのだろうか。
このような人がで賑わいくつろげる中心街になったのは、20年前からキール通りとそれに接続する数本の道、延べ約1300メートルを全面的に自動車乗り入れ禁止にしているからだ。ドイツではかなりの都市で実施しているこの政策は、環境対策であるのはもちろんだが、市街地活性施策であり、福祉施策でもあり、観光振興施策でもある。エッカーンフェルデ市はその先進的な事例である。
さらに、市街地だけでなく全市域の道路の70%に何らかの交通抑制施策が実施されている。ただ、それ以上に自転車を利用しやすい総合施策がすすんでいるので、クルマより自転車を利用する人の方が多い。エッカーンフェルデ市は自動車道の半分に自転車専用道路をつけている。また自転車専用道路のついていない道は、「ゾーン30」と呼ばれる時速30km制限地域の道やあまり自動車交通のないところなので専用道は必要ない。また、街のここかしこに工夫を凝らした駐輪施設があるので停めておくのに不便はないし迷惑にもならない。

3.3 技術とエコロジーセンター

雨水を利用してつくられた小さな池にかかる木の橋を渡り建物の中に入ると、まるで植物園の温室と思ってしまうであろう。TOZ(エッカーンフェルデ・技術とエコロジーセンター)はそんな建物だ。41のベンチャー企業が入居しているビルで、その企業への支援も行っているセンターである。
この建物自体が、エコロジーを見事に具現化している。例えば、床部分の断熱にはガラス粒が使われ、コンクリートの替わりにプラスチックボールを鉄骨の間に入れて軽量化している。壁と屋根の断熱には12種類の自然素材、葦、亜麻、羊毛クズなどを使用。暖房配管の防護には木綿を利用している。資材はリサイクル・再利用可能なもの、コンポスト処理可能なものを利用し、ポリ塩化ビニル樹脂、鉱物繊維、ポリスチロール、ポリウレタンなどの利用はしないというコンセプトである。
中庭の北側に面する工房棟の壁には焼いていない粘土レンガを利用、昼間は熱を吸収し夜間は放出する働きがある。また壁は二重になっており、暖かい空気は下の隙間から壁の中に入って上昇し、天井近くの二重窓を通って中庭へ戻る空気の循環ができている。ガラス張りのホールではソーラーエネルギーのパッシブ利用をしており、床からくる熱と昼夜の温度差を利用した室内空間の自然空調機能とも結びついている。このようなシステムにより、冬期に冷え込み外気がマイナス20℃になったときでも館内は6〜7℃に保たれるという。また、光の量に応じて照明を自動制御する設備も部分的に導入している。このような様々な工夫は、ガス、温水、電気消費量を節約し、それによって経営費を抑えることにも役立っている。
植物も単に「ディスプレイ」として置かれているのではない。いちじく、キイウィなど実をつける木、夏は木陰つくり冬は太陽の光をとおす落葉樹、四季折々に咲く花々など、自然と人々のよい付き合いを演出している。また、このようなかたまりのある植栽は快適な空気をつくり安価に室内気候を整えるのに役立っている。
このような試みは、多くの好影響を生んでいる。ひとつにはこれら開発された技術が他の建築物に応用されていくことで、すでに幼稚園などで実現されている。またエコロジカルな要求と経済性は必ずしも相反するものではないという認識が具体的に証明されたことになる。そしてこのTOZに入居したエコロジカルな要求をもっている革新的企業に対し建物自体もインスピレーションを与えている。

3.4 LプランとFプランの整合

5年たつと企業はセンターを出てまちに事務所や工房を構えることになるが、まだ完成後4年以内に、すでに7企業をエッカーンフェルデ市内に送出している。その中には100人の従業員をかかえるところも現れている。TOZは非常に好評ですでに1度増設し現在41の企業が入居しているが、まだ待機している企業もあるという。
行政計画面でもエッカーンフェルデ市には大きな特徴がある。それは自然環境・景域計画(Lプラン)基づいて、土地利用計画(Fプラン)の全面的に変更したことである。日本の自治体に置き換えれば、環境基本計画と都市マスタープランが完全に整合が採れているようなものだ。エッカーンフェルデ市のように土地利用・開発計画と環境保全の摩擦が少ないまちはドイツでも珍しいという。またこの様な計画に基づく自然復元も工夫をこらしながらすすめられている。

3.5 市民参画で環境首都へ ハム市

ハム市はヨーロッパの大炭鉱地帯であったルール地方の東端にあり、かつては4つの炭鉱が市内にあった。3つの炭坑は閉鎖となり、操業をつづけている1つも閉鎖は時間の問題と見られている。ハム市のまちづくりにとって最も大きな課題は、主要産業であった炭坑の閉鎖に伴うまちの経済の沈滞、失業、荒廃からの脱却であった。市は「未来のエコロジカル都市」モデルプロジェクトを始めるにあたって、環境団体、学校、手工業者、企業など各界各層500以上の団体に手紙を送り「パートナーとして一緒にやりましょう」と呼びかけた。立ち上げ集会には100以上の団体が参加し、そして建築、水、エネルギー、廃棄物、子どもと青少年など8つのワーキンググループが生まれた。ハム市の施策に派手なものはない。市民参画と小さなしかし多様な活動の積み重ねによって環境首都に選ばれたのだ。

3.6 鉱山の跡地がエコセンターに

閉鎖された炭鉱のひとつは、「エコセンター」として甦った。50ヘクタールの敷地のうち17ヘクタールに施設を設置し、残り3分の2の土地は森林及び自然に草花が生い茂る土地として、レクリエーションなどに用いられている。エコセンターは産業と雇用振興・メッセ・コンベンション施設である。メッセの中心となる建物はかつて炭鉱の機械施設があった煉瓦造りの建物である。開催されたメッセには、120のメーカーが参加し94年から3年間にわたって開催された「再生可能エネルギー見本市」をはじめ、「エコロジー建築物」「歴史的建築物の保存」「エコ産業への資金調達」「ソーラーを生かした建築」「オーガニックな食べ物、衣服」など実際的なテーマが並んでいる。
エコセンターで開催されている様々なセミナーの中でも建築関係のものが人気が高い。ただ建築事業者は、仕事の傍らまとめた時間をとることが困難な人が多いので「ルール地方建築フォーラム」や「経済促進協会」と共同でインターネットを用いたエコロジー建築の講座を開催している。ドイツ全土だけでなくオランダ、スイス、オーストリアからも受講者が集まったという。センター内には、この他にもエコロジー住宅のモデルハウス、建築物のメンテナンスの研究施設や環境影響調査の公社、ベンチャー企業育成のセンターも立地している。
もうひとつの炭鉱跡地は、市民の憩いの場「マクシミリアンパーク」に生まれ変わった。広大な敷地は、池、昆虫館、ビアガーデン付きレストランもある植物園となり、自然素材の遊具も備えられ、家族づれでゆっくりと休日をすごす姿がめだつ。炭鉱の引き込み線であったところでは、蒸気機関車など昔の車両が動態保存され、定期的に運転もしており鉄道ファンにも魅力のあるものとなっている。

3.7 子どもが参加する公園、校庭づくり、省エネ

ハム市議会では「子どもの遊び場の計画と建設には、基本的に周辺に住む子どもが参加すべき」と決議している。その決議に基づきすでに20を超える公園が、子ども参加のもとに設置、改設された。計画づくりは子どもや親の意見を聞きながらすすめられる。平らな緑地とありきたりの遊具しかなかった公園は、丘あり池あり起伏に富んだ空間に変わり、子供たちが好きな小屋もつくられる。植栽はできるだけその地に自生するものに変えられた。実際の工事は失業中の人があたったが、簡単な作業は子どもたち自身も手伝った。
遊び場だけでなく、学校の校庭も生徒、親、先生が参加してエコロジーなものにえていっている。以前はケンカやイジメが絶え小学校が、校庭を緑化してから子供たちが屋外で思いきり遊ぶようになり、ケンカやイジメがほとんどなくなったという副次的効果も現れている。子どもたちは、学校での省エネ活動にも積極的に取組んでいる。フィフティー・フィフティー・プロジェクトと呼ばれるもので、子どもと先生が協力して、休み時間は電灯を消す、換気を効率良くするなど行動を変えることでエネルギーと水の節約に取組んだ。初年度は18校で取組まれ20万マルク(約1000万円)を節約した。その半分は学校に還元され、子どもと先生が相談して自由に使える仕組みになっている。

3.8 市民主体の公共プロジェクト

ハム市では市民が自主的に取り組むエコシティーづくりをすすめており、自然環境を活用した公共的なプロジェクトに実費とアドバイス費用として最高5000マルクが助成される。例えば、自治会がバスの待合所の屋上を緑化する、バーベキュー広場の周りに石垣をつくり緑で日よけをつくる、クラインガルテン(市民農園)の駐車場の舗装を剥がし雨水が浸透できるようにする、幼稚園の園庭を自然に近いものにつくりかえる、公園の釣り池を自然に近い形に改修など120の活動が自主的に行われた。
この他にも、自転車のまちづくり、ソーラープロジェクト、ビオトープの保全など様々な活動が実践されている。この両市だけでなく、ドイツや北欧諸国の環境都市は、エコロジーに取り組むことによって、より質の高いゆたかなまちづくりを実現してきていると考えられる。

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