21世紀、地球を、地域を、生活を、持続可能な豊かさに
第8回 2枚の写真
文/代表理事 すぎ本 育生
新石垣空港の建設問題を通じて知り合った吉嶺全二さん(故人)は、沖縄の水中写真を長年にわたって撮ってきた方であった。と言っても社会的問題がその撮影動機としてあったのではない、むしろ海が好きで趣味で毎週末に海に潜って撮影していたのだと、語られていた。その吉嶺さんが撮った多くの写真の中で2枚1組の写真がいくつかあった。沖縄の同じ場所を撮影したものだが、1枚は沖縄海洋博以前に撮ったもの、もう1枚は海洋博後に撮ったもの。前者では美しい海中景観を形作っていたサンゴ礁が後者では無惨にも崩れ去っていた。これらの写真などを元に、沖縄のサンゴ礁に大きな被害をもたらしたオニヒトデの異常発生は自然現象ではなく、陸上での大開発に伴う赤土の流出が要因だと、吉嶺さんは訴えられていた。
ただ、海洋博以前に撮った写真は、もともとこんなことになると思って撮ったものではなく、海が好きで撮ったものであったのに、結果として海の環境破壊を伝える写真になってしまった、と話された。当時の私は、なるほどそんなこともあるのだな、と他人事のように考えていた。
私は海も山も好きであり、休暇はできるかぎり海か山で過ごすようにしている。写真は撮るが趣味と言うほどではない。ただ美しい自然や見たこともない生きものを見ると、つい友人、知人に見せたくなってシャッターを押してしまうというのが実態である。そんな程度だから、以前は自分の撮った写真が、地球温暖化による自然の変化を捉えるものになろうなんて考えてもみなかった。
ここに2枚1組の写真が2組ある。スイスとモルディブで撮ったものである。スイスの写真はマッターホルンにつながるブライトホルンとその周辺の氷河を84年6月末に撮ったのが上記写真左である。この写真を撮ったときはただ氷河と4000メートルを超えるスイスアルプスの風景をおさめたかっただけであった。その同じ風景を今年の6月末に撮ったのが上記写真右である。今年スイスアルプスに訪れた時には、1985年から2000年の間にスイスの氷河が22%も減少したという情報が私の頭の中にあった。さらに現地の山岳ガイドが、氷河が減っていると口を揃えて話すのを聞いた。それで私の記憶の中にあった以前に氷河を撮った写真と同じところと思うところで今年撮影してみたのだ。帰国して84年の写真と比べてみたらあまりにも明確に変化しているのに驚かされた。
モルディブのサンゴ礁の素晴らしさは、この連載でも述べたとおりだが、環境市民のエコツアーで訪れてから何回も通うようになったのが南マーレ環礁にあるビヤドウ島。島のすぐ外側を美しいサンゴ礁が360度とりまいていて、100種を超える魚がシュノーケリングで見ることができる。まさに竜宮城のようなサンゴ礁であった。9年に撮影した1コマが上記写真左である。しかし98年7月に異常な高水温(37度〜38度)が約1ヶ月、モルディブのほとんどの島を覆った。その結果かなりのサンゴ礁が死滅した。現在は少しずつ回復してきてはいるが(上記写真右)、今後予測される温暖化が進むと完全な回復は不可能になってしまう。
地球温暖化は予測以上のスピードで進行している。そのスピードが私に「証拠写真」を撮らせてしまった。このままでは今後多くの人がこのような2枚の証拠写真を撮ることになってしまうだろう。そのようなことにならないように根元的な社会改革が必要とされている。
(みどりのニュースレター 2006年9月号 No.160掲載)