21世紀、地球を、地域を、生活を、持続可能な豊かさに
第1回:「ECO」日本語化プロジェクト
"There Is no Planet B"
–私たちに代わりの惑星などない
・・・本年5月、ナイロビで開催された生物多様性条約(CBD)第14回科学技術助言補助機関会合(SBSTTA14)の初日に発行された『ECO』の冒頭に、こんなタイトルの文章が掲載されました。Planet Bとは、おそらくPlan B(代案)をもじった言葉で、“(地球がダメになったときに使える)代わりの惑星”という意味でしょう。
・・・さて、この『ECO』とは?
CBDの公式会議(※1)などで、CBDアライアンス(NGOの国際的ネットワーク組織)が発行しています。記事はNGOの各団体または個人名の投稿で成り立っていて、そのときまさに会議で問題になっていることに対してNGOの意見を表明し、議論に影響を与えることが目的です。
・・・私が『ECO』を最初に手に取ったのは、2008年にボンで開催されたCOP9の会場でした。セキュリティゲートを抜けた通路の両側に各国政府やNGOなどが発行するいろいろな資料が山積みされていましたが、その中の、さほど目立たない場所にそれはありました。しかし、気づくと、毎朝、NGOだけでなく政府の代表団までが刷り上がったばかりの『ECO』を手に会議場に入っていきます。ある時は、会議中のモニタースクリーンに映し出された発言中のカナダ代表の手元に『ECO』があるのが見えました。その『ECO』にはカナダを批判する記事が書かれていたのですが、各国政府団もNGOがどのような意見を持っているのか気にしているのです。
・・・このようにCBDにおいて『ECO』が重要視されるのはなぜでしょうか。
クリスティーナ・フォン・ヴァイツゼッカーさん(エコローパ代表)は、CBD設立当初から関わっている生え抜きNGOの一人です。彼女は、CBDに市民がかかわる必要性を次のように述べています。
「生物多様性条約は、持続可能な社会を作るための条約。この地球の上でいつまでも生き続けるということは、私たち市民の生き方の問題。だから生物多様性条約は、専門家主義に陥らず、市民社会(civil society)に開かれていて当然なのよ」。
この言葉で解るようにCBDは、締約国だけでなく市民社会、先住民・地域共同体(Indigenous and Local Communities)、女性・青年、そして企業までもが、意志決定のプロセスに参加することを求めています。最終的な決議には参加はできないものの、本会議でNGOの発言も認められますし、関係国同志での話し合いにもNGOの姿が見られます。議論をまとめていくためには、それぞれの国益を優先せざるを得ない締約国だけでなく、市民社会・NGOは重要なカウンターパートとなります。だからこそ、『ECO』の記事が注目されるのです。
・・・『ECO』を翻訳してたくさんの人に読んでもらいたい。COP9 から帰って、強くそう思うようになりました。COP9で、森林や海洋、農業など、それぞれのテーマに関わるNGOが国を超えて連携している姿を見て、日本の各地で活動しているNGOもその連携の中に入れたら素晴らしいと思いました。しかし、そこには言葉の壁が大きく立ちはだかっています。
せっかくCOP10が日本で開催されるのだから、注目されているときに発信したい。そんな思いからCBDアライアンスに了解も取り、環境市民東海事務所の牧村所長とともに、何人かの関係者に相談しながら『ECO』日本語化プロジェクトを立ち上げました。英語に堪能なボランティアを募集し、無償という条件ながらも20人以上の方が応募してくれました。環境市民の会員の方も数人参加しています。10月のCOP10会期中は2週間毎日『ECO』は発行されます。それまでにCBDについての勉強会を開催したりしながら体制を作っていきます(最初の英文もボランティアの方が訳してくれました)。
日本語版『ECO』で、生物多様性の問題点を一人でも多くの人に知ってもらい、私たちの未来を少しでもよいものにしなくてはいけません。なぜなら、代わりの惑星はないのですから。
(文/「ECO」日本語化プロジェクト コーディネーター 原野 知子)
※1締約国会議(COP)、特別公開作業部会(WG)、SBSTTAなどがあります。
(参考)CBD アライアンス,ナイロビSBSTTA会議の様子
(みどりのニュースレター2010年7月号 No.206より)