原発はコストや温暖化防止効果だってメリットない | 認定NPO法人 環境市民

原発はコストや温暖化防止効果だってメリットない

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

こんにちは こちら環境市民・堀です。

「3月15日、与謝野馨経済財政担当相が閣議後の会見で、エネルギー資源に乏しい日本としては原子力利用が不可欠との考えを改めて強調した」との報道がありました。

関東では計画停電が実施され、しばらくすると「こんな不便をするなら、なんでもいいから、とにかく電気を作ってくれ」という声も出てくることでしょう。計画停電では交通機関や信号機まで対象となり、生活、生産活動、安全、これらに重大な影響が出るわけで、明日の予定も立てられないわけですから、そんな思いがよぎるのも無理もないと思います。

そんな時、必ず与謝野大臣のような主張が出てくることでしょう。さらには「原子力発電は、発電時CO2を出さない」「他の発電と比べて発電単価が安い」という主張も、またぞろ出てくると思います。さらには「より新しい原発なら事故は起きていなかった」などの根拠の乏しい主張も出てくることでしょう。

今回のような事故を起こし、日本経済や人々の暮らしに大打撃を与えることになった原発ですが、仮に通常に運転されたとしても、原発の経済性や温暖化防止効果が、決してこれまで言われていたほど、メリットのあるものでないことを明らかにしておきたいと思います。

少し前の記事ではありますが、原発の経済性と温暖化防止効果について書いたものがあります。本文を下にペーストしますが、グラフ等が本ブログでは掲載できませんので、できれば下記のURLを見てください。3ページ以降が「原発を考える」の特集です。

STOP温暖化 待ったなし 原発を考える
みどりのニュースレター Vol.173 2007年10月発行

(内容は2007年執筆時のもの。大事故が発生した現在の状況と違う面があることはご留意ください。)

https://kankyoshimin.org/newsletters4public/200710.pdf

 

・いつしか決まっている「エネルギーの将来」
現在の生活に電気はなくてはならないものです。その電気を、将来にわたってどのようにして得るか、「エネルギーの将来」をどのように描くか、深刻化する地球温暖化防止を考えるうえでも、たいへん重要な課題で、本来、国政選挙の争点になってもおかしくありません。しかしながら、私たちの国では、そのような国民的議論がなされずに原子力を中心とした国のエネルギー政策が決まり、それに沿って様々な事業が進んでいます。

・多くの人が抱いている思い
2002年夏、東京電力の原子力発電所(以下、原発)での事故隠しや点検データ改ざんなどが発覚。2004年夏、関西電力美浜原発で死者5人を出す蒸気噴出事故が発生。今年(2007年)になって、北陸電力志賀原発で1999年臨界事故を起きていたことが発覚。また東京電力のデータ改ざんや法令違反が200件近くになることもわかり、原発の運営管理について不安を感じた人は、これまで以上に多くなっていることでしょう。
一方、原発はメリットとして、「効率よく大量の電力をつくりだすことができる」「運転時、CO2を出さず地球温暖化防止に貢献できる」「他の電源と比べて、安価に発電でき経済的である」などが強調されます。そのため、不安を抱いていても、「地球温暖化のことや、安定供給など考えたら、原発に頼らざるを得ない。事故なく安全な運転さえしてくれたらよい」と考える人も多いと思います。

・大事なことは議論できる条件づくり
原発について大きな不幸は、反対派、推進派がはっきり別れてしまい、ともすれば感情的なやりとりになってしまうため、「関わりたくない」と思う人が多くいることではないでしょうか。エネルギー、特に電気エネルギーをめぐる将来がどうあるべきか、前述のように大変重要なテーマであり、多くの人が関心をもち、議論を経て決められるべきです。そのためには、議論ができる条件がつくられないといけません。

・議論ができる土台をつくりたい
今回の特集では、原発のメリットとして強調されることの多い「効率性」「温暖化防止効果」「経済性」について、「もっと知ってほしい」と思う情報や視点を取り上げます。ところが、原発に関する情報には、具体的データにたどり着けない場合も多々あります。もちろんデータそのものがない場合もあります。それについては、視点・考えを提示するにとどめていますが、その点、ご了解ください。
今回の特集は、原発推進派の人たちにも、不安を感じる人たちにも読んでもらいたい内容です。推進派の人たちには、原発に不安を感じる人たちに向け、どのような情報が明らかにされる必要があるか感じてもらいたいですし、不安を抱く人たちには、「危険」以外の問題について、考えを深めてもらうのに役立ちたいと思います。今回の特集が、多くの人が議論できる土台づくりに役立ったら幸いに思います。

グラフ 電源別発電電力量と設備容量(2006) 略
グラフ 発電量の伸び(最近30〜40年) 略

ここまで記しましたように、原発のメリットとされる、「効率よく大量の電力をつくりだすことができる」「運転時、CO2を出さず地球温暖化防止に貢献できる」「他の電源と比べて、安価に発電でき経済的である」の3点について、実際にどうなのか見てましょう。

安定供給と効率性について

・原発がないとただちに大停電になるのか
2006年度、全国の原発の発電量は全電力需要の34.2%※1を占めました。1985年が16.9%でしたので、四半世紀で2倍に増えています。一見、「もし原発が停まると、3割以上の電気が使えなくなる」ように思えますが、どうでしょうか。
「発電電力量実績」の他、「発電設備容量」という言葉に注目してください。これは発電所が発電できる能力のことで、2006年度全国の原発の合計は4964万kW。率にして20.8%。つまり、2割の施設で3割以上の電気をつくりだしているわけです。これは、原子力発電は出力調整が難しいため、効率のよいフル稼働をさせ、他の発電は、電力需要の多い昼間だけ動かすなど、調整用電源として用いているため、原発の発電量が他の発電施設より突出して多くなっているのです。
そこで、原発を除いた発電所の設備容量を見ると、約1億8900万kW。近年、最も電力需要が多かった2001年7月24日午後2時頃の消費電力が1億8200万kWでしたので、なんとかそれを上回っています。もちろんこれではほとんど余裕がありませんが、電力需要がここまで大きくなるのは、真夏の数時間だけです。原発がなくなると、今すぐ社会がたちいかなくなる、というものではありません。
※1 電力10社合計 以下同じ

グラフ 1日の発電量と電力需要の推移 略

・夜間余分に電気をつくっている
原発は出力調整が難しいため、ほぼフル出力で一定稼働しています。ここで問題となるのは、夜間は必要以上に発電してしまうことです。電気は貯蔵することができず、余分な電気はそのままでは無駄になるだけです。そのため夜間電力割引などで需要喚起していますが、最も大きな使い道は、揚水発電です。これは夜間の余剰電力を使い、水を標高の高いダムにポンプで揚げ、昼間それを流下して発電するものです。揚水発電は標高の違う2つのダムが必要なうえ、水をモーターで揚げること自体、効率のよいものではありません。

・熱効率(発電効率)は高くない
一般的な火力発電所の場合、石油や石炭などの燃料がもっているエネルギーを電気エネルギーに転換できる割合は、40%程度です。これを熱効率または発電効率と呼びます。最新の火力発電所の中には、熱効率が50%を越えるものもあります(コンバインド発電など)。
原発の場合、安全確保のため発電用のタービンをまわす蒸気圧や水温が低めに設定されていて、電気エネルギーへの転換効率も35%程度です。原発で使うウラン燃料は、わずかな量で膨大な熱エネルギーが発生するため、数%の発電効率の違いは大きな問題ではないかもしれません。ただ、熱から電気への転換効率の低さは、それだけ多くの廃熱を出す事を意味し、それは「温排水」という形で外部に放出されます。

・安定して燃料の確保ができるのか
国際原子力機関(IAEA)などによると、現時点でウランの「推定埋蔵量」は270年分あるとのことです。一方、「確認可採埋蔵量」は、現在の消費量の85年分と言われています。前者は採算を度外視した数字で、まだ見つかっていない鉱脈も含んでいます。後者は確認された鉱脈のなかで、現在の技術で採掘して採算の合う埋蔵量をあらわしています。
ウランは、近年投機の対象になり、今世紀に入ってから価格が12倍以上跳ね上がっています※2。原油は同期間6.6%アップ。桁が違います。価格上昇によって「可採埋蔵量」は増えますが、急激な価格上昇はよいことではありません。また、途上国で原発建設が進めば、「可採」年数は短くなります。仮に「可採埋蔵量」が85年から増えなければ、今世紀中頃、資源の枯渇問題とも向き合わないといけなくなります。

※2

・高速増殖やプルサーマルの将来は
ウランも限られた資源であるため、原発で発生した使用済み核燃料の再利用などが検討されています。そのなかで、使った燃料以上に核燃料を生み出すとされる「高速増殖」に期待をかける人も多くいました。しかし、1995年福井県敦賀市の高速増殖原型炉「もんじゅ」で発生した金属ナトリウム漏洩による火災事故と、事故後の動力炉・核燃料開発事業団(当時)の対応の拙さが世論の反発を招き、開発は中断しました。現在、2008年の再開を目指して改造工事中ですが、世界の高速増殖炉の中で、唯一運転されていたフランスのスーパーフェニックス-1が、2度にわたる事故や故障、経済的理由により1998年2月に閉鎖され、以後解体されるなど、高速増殖炉の開発を積極的に進めているのはロシア、中国など、限られた国だけになっています。
高速増殖炉実用化までの「つなぎ」として浮上したのが、使用済み核燃料を加工したウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)を活用するプルサーマル(和製英語)です。プルサーマルはフランスやドイツなど、外国での実績は多くあります。ただ経済性については、「得られるエネルギーは1.2倍程度で、コストやリスクの方が大きい※3」や「コスト面で直接処分の方が優位※4」などの研究や報告もあります。原発の運転によって発生する使用済み核燃料にはプルトニウムが含まれるため、大量に貯留すると外国から核兵器転用の疑念を受けます。プルサーマルを進めている国には、そのような政治的配慮もあるようです。
日本では2010年には国内16〜18基でプルサーマルの実施が予定されていますが、今のところ地元合意がとれているのは2基しかありません(他に協議中あり)。
※3 中央大学教舘野淳教授、福島大学清水修二教授らの研究 2007.3
※4 マサチューセッツ工科大学 リチャード・レスター教授「原子力の未来」2003.8など

CO2の排出に関して

・運転時にCO2は出ない。しかし、その前にかなり複雑な作業が必要
核分裂はCO2を出さないので、たしかに原発は、発電時にはCO2を出しません。しかし、核燃料は、採掘の後、精錬、転換、濃縮、再転換など生成まで多くの工程が必要です。この点、沸点の違いを利用して多くの石油関連製品をつくり出す原油精製と違い、ウラン燃料は、それだけのために多くの作業を必要とします。この中の「濃縮」とは、核分裂しやすいウラン235の濃度を高める作業を指します。天然ウランはウラン235を0.7%程度しか含みませんが、燃料とするには、これを3〜5%まで高める必要があります。濃縮にはガス拡散法と遠心分離法があります。ガス拡散法は従来からある方法で、3〜5%の濃度を得るのに濃縮作業を1000回前後繰り返す必要があります。遠心分離法は現在主流になりつつある方法で、ガス拡散法より反復工程でおよそ30分の1、必要なエネルギーも10分の1ほどで済みます。
日本の場合、採掘から転換まですべて海外での作業に依存していますが、濃縮は青森県六ヶ所村の施設でも実施されています。この施設は遠心分離法を採用していますが、国内需要の一部しか賄えず、大部分の核燃料の濃縮は、アメリカ(施設名パデューカ)やフランス(トリカスタン)に委託しています※5。これら両プラントはガス拡散法を採用しています。
※5 日本が買い付けたウランを海外の濃縮工場に運び、濃縮を委託している。今年になってロシアへの委託が浮上。トリカスタンを運営しているユーロディフ社は欧州など5ヶ国による合弁会社。

・温排水は火力発電より多い
原発の発電効率を35%程度と紹介しましたが、残り3分の2はほとんどが熱エネルギーとなり、冷却水を通じて外部に放出されます。冷却に使われた排水は取水時と比べて7℃程度高くなります。発電容量100万kW級原発の場合、1基毎秒70〜80㎥排出されます。7基ある柏崎刈羽原発なら、最大でこの7倍を放出するわけです※6。大阪の淀川の平均流量が163m³/s※7ですので相当な量です。冷却に使った海水はもちろん、温水の流出によってまわりの海水温も上がり、海水に溶けていたCO2が大気に放出されます。
これは火力発電所も同様ですが、発電効率が原発に比べ高いことや熱の大気放出もあり、温排水は100万kW級発電所1基あたり毎秒40㎥程度です。温水や熱を付近の工場等で活用している発電所もあります。
※6 2007年7月発生した新潟中越沖地震のあと停止しています
※7 枚方観測所1952年~2002年の観測値

・廃棄物処理には長い時間が必要
原発から発生する高レベル放射性廃棄物は1日1.4t(2000〜2004年度実績)、低レベル放射性廃棄物は1日65t(2005年度実績※8)です。一般廃棄物や産廃と量だけ比べたら微々たるものですが、高レベル放射性廃棄物は元になったウラン鉱石に比べ10数年後でも1万倍の放射線を放出しますし、ウラン鉱石なみに減衰するのに1万年以上かかり※9、その処分には厳重な管理が必要です。
高レベル放射性廃棄物は、原子炉から取り出した後、重さ500kgのガラス固化体に閉じ込め、その後、地底深く埋めることになっていますが、それまで数十年冷やし続ける必要があります。2006年末までに出た高レベル放射性廃棄物をすべてガラス固化体にすると、2万本になり、今後も毎年1,100〜1,500本発生します※。しかも現在、どこに処分するか候補地のメドも立っていません。
※8 資源エネルギー庁 総合資源エネルギー調査会資料より(2005年8月)
※9 原子力発電環境整備機構HPより

・「発電時はCO2を出さない」が強調され過ぎていないか
たしかに原発は、発電時のCO2発生はありません。しかし、発電の前後で他の発電システムより多くの手間と気の遠くなるような時間を必要とします。原発と火力発電所のCO2排出量比較については、電力中央研究所から1995年に出された報告※10で、1kWh当たり石炭火力270g(炭素換算・以下同)、LNG(液化天然ガス)火力178gに対して、原発は5.7gとされていて、この数字が今もよく使われます。しかし、12年も前の研究報告であり、現在の状況を基にした研究成果が待たれます。
※10 電力中央研究所「発電システムのライフサイクル分析」研究報告Y94009 内山洋司ら

コストについて

・電力業界と民間団体の発電単価試算比較
電気事業連合会(以下、電事連)が2003年12月総合資源エネルギー調査会に提出した資料※11によると、1kWh当たりの発電に必要な費用は原発の場合5.3円で、他の電源については以下の表の通りです(左側)。
発電単価については、原子力資料情報室(民間団体)からも試算が出されています※12。それによると、電事連試算は原発の稼働率等有利な条件を与えている、他の電源も条件をあわせたならば、LNG火力4.88円、石炭火力4.93円など、電事連試算よりずっと安くなるとしています。
※11 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会資料「モデル試算による各電源の発電コスト比較」2003.12
※12「原子力発電の経済性に関する考察」原子力資料情報室 勝田忠広ら 2005.3
http://cnic.jp/files/cost20060612main.pdf

電源種 発電単価(円/kWh)
電気事業連合会 原子力情報資料室
原子力 5.3 5.73
LNG火力 6.2 4.88
石油火力 5.7 8.76
石炭火力 5.7 4.93
一般水力 11.9 7.2

・含まれていない費用を加算する
電気代に「電源開発促進税」が含まれ、毎月徴収されていることをご存知でしょうか。1kWhあたり0.325円。塵も積もれば山となり、2007年予算で年間3,460億円。これを主財源として、「発電用施設周辺地域整備法」に基づき主に原発立地周辺に交付金が出され、体育館や温水プールの建設、周辺住民の電気料金割引などにあてられます(漁業補償金は建設費に含む)。
これを加算した原発発電単価試算があります※13。それによると、2002年の交付金は電源開発促進税の税収3,511億円を含め5,335億円。これを同年の電力9社と日本原発(株)の原発発電実績2,941億kWhで割ると、1kWhあたり1.6円。これを電気事業連合が試算した原発発電単価5.3円に足すと6.9円。経済的な優位はなくなります。
※13 「コスト計算に含まれない原子力発電の諸費用に関する調査研究」原子力資料情報室 伴 英幸ら2004

・バックエンド費用を考える
原電での使用済み燃料や放射性廃棄物の処理処分などにかかる費用を「バックエンド費用」と呼びます。電事連の試算によると今後必要なバックエンド費用の総額は18.8兆円※14。このうち、費用回収の仕組みがあるものは約10.1兆円で、再処理工場の解体費用や、その際に出る廃棄物の処分費用などを含む残り8.7兆円は、費用回収の仕組みがまだありません。そのため、新規参入の電力小売事業者(PPS)にも費用の一部を負担させようという案もありますが、PPSの中には風力や太陽光発電を主とする事業者もあり、猛反発が起きることでしょう。バックエンドに必要な作業や期間は、社会情勢の変化により今後変わることもあり得ます。「バックエンド費用18.8兆円」というのは、「最低これだけは必要」と思っておいた方がよいでしょう。
また、現在の原発全55基の廃炉費用として2.9兆円※15が見積られ、電気料金に含まれ積み立てられています。100万kW級原発1基あたりでは600〜660億円。ところが2001年に廃炉・解体が始まった東海原発(出力16.6万kW)の場合、解体に350億円、廃棄物処理に580億円、総額930億円必要と見積られています。初めてのケースとは言え、小型の原発でこれだけ必要なら、大型原発の解体費用がどれだけになるか、やってみないとわからないのが実際のところでしょう。
※14 電気事業分科会コスト等検討小委員会資料より 2004年1月
※15 電気事業連合会 2007.2.8発表資料より それ以前の試算は2.6兆円。

・ウラン価格の急騰も気になる
前述のようにウラン価格は急騰しています。それがスポット取引での価格であれ、今後大きな影響が出る可能性があります。発電単価のうち燃料費は0.17円(3%程度)とされていますが、これが10倍以上になれば、発電単価への影響も大きなものになります。

・多くの非社員に依存した運営
2004年8月の美浜原発での事故後の東京新聞記事によれば、全国の原発で働く電力会社の正社員8,200人に対して、下請け会社(協力会社)以下非社員は58,000人で、その比率は1:7になります。中越沖地震当時の柏崎刈羽原発も正規職員1,082人、関係会社5,500人で運営されていました。危険な作業の多くを非社員が担っていて、美浜原発事故で亡くなられた5人も全て下請け会社(協力会社)の社員でした。発電単価を考えるとき、労働実態や下請けへの対価の妥当性等も含めた検討が必要でしょう。

・耐震基準の見直しで原発建設と運用費用はもっと高くなるはず
1978年策定の原発耐震性審査指針が想定した揺れは最大450ガル(加速度の単位)。中越沖地震で柏崎刈羽原発を襲った揺れは最大993ガル。建設時の想定をはるかに上回っていました。阪神淡路大震災が起きた1995年以降、「日本列島は地震活動期に入った」と言われ、10年かけて耐震性審査指針が改定されましたが(2006年9月)、もし今後、新規に原発を建設しようとすれば、断層調査や耐震施工等これまでより格段に多くの費用と時間を必要とすることでしょう。
また、地震当時の柏崎刈羽原発に、自前の化学消防車やポンプ車がなかったことに愕然とした人も多いと思います。多くの国民は、こういったものが整備されたうえで、発電単価が計算されていると考えていたことでしょう。必要なものを整備したうえで、コスト計算されるべきです。

・その他
紙面の制約で十分紹介できませんが、原発の経済性を考えるとき、夜間余剰電気の使い道となっている揚水発電や、出力調整が難しいため必要なバックアップ電源などの建設・運用コストも考慮すべきとの考えがあります。また、国内での燃料用ウラン濃縮が本格化することで、大量に生まれる劣化ウランの処理費用も考慮する必要があります。

まとめ
・原発がなければ社会が立ち行かなくなるわけではない。
・原発のCO2排出について、燃料の生成、劣化ウラン処理、温排水の影響、使用済み燃料の処理処分などを含めて検討し、かつLNG火力発電の熱効率向上を考えれば、両者の差は、従来考えられているよりも小さくなると思われる。
・発電単価計算についても、発電所立地への交付金をはじめ、本稿で問題提起した諸費用を加算したなら、原発の経済性はかなり厳しいものになるだろう。

日本を「省エネ大国」と形容する人がいますが、一次エネルギー(投入した全エネルギー)に占める最終エネルギー(ロスを除き実際に使用したエネルギー)の比率は、1972年(オイルショック直前)の69.2%から2004年の67.7%へとむしろ低下しています。つまり、どこかで省エネが進んだ一方、無駄になるエネルギーも大幅に増えているのです。ここを注視すると、脱原発と温暖化防止をともに進める道が見えてくるでしょう。それについては別の機会で取り上げたいと思います。

以上

STOP温暖化 待ったなし 原発を考える より
みどりのニュースレター Vol.173 2007年10月発行(内容は執筆時のもの)

できれば、下記URLで見てください。3ページ以降が特集「原発を考える」です。
https://kankyoshimin.org/newsletters4public/200710.pdf