連載第6回:COP10での成果 – 何が残り何が始まるのか。 | 認定NPO法人 環境市民

連載第6回:COP10での成果 – 何が残り何が始まるのか。

Mother Earth is not for Sale. No to the greed economy. Yes to equity, justice and biodiversity.
母なる地球はお金では買えません。どん欲な経済はいりません。必要なのは、そう、公正と正義と生物多様性です。

文/ 「ECO」日本語化プロジェクト コーディネーター 原野 知子

・・・この記事が読まれるのは12月。ちょうど気候変動枠組み条約COP16メキシコ・カンクン会議も始まって、10月のCBD -COP10/MOP5のことなどすでに記憶の彼方かもしれませんが、どうか思い出してください。
COP全体の概要は環境省報道発表資料(※)にまとめられています。COP期間中、私自身は明け方から午後1時くらいまで『eco』翻訳版の編集作業を自宅で行い、原稿ができあがってから国際会議場へ出かけていたので、会議全体の流れや国際会議場内外でのいろいろなイベントにはほとんど参加できず。この記事では、断片的ながら自分が見聞きし、感じたことを伝えることにします。

(写真右)BY 2020:2020年までに
会議場入口で新戦略目標の懸案[2020年までに]を盛り込むことをアピールする日本ユース“がけっぷちの生物多様性実行委員会”メンバー。

・10月11日(月):MOP5初日。今回のCOP10における3大課題のひとつ、カルタヘナ議定書「責任と修復」条項(9月号第3回参照)についての補足議定書が採択される見通しが立ち、お祝いムードが漂いました。

・10月12日(火):『eco』Vol. 34 issue 1 発行。MOP期間中に『eco』を発行するかどうかぎりぎりまで決まらず、前日になって火・木2回の発行が決まりました。英語版は朝9時に印刷が上がって会議室入口をはじめ、国際会議場会場各所やセキュリティーエリア外の交流ブースなどで配布、翻訳版は午後3時過ぎにやっと印刷、配布することができました。内容はカルタヘナ議定書に関することなのでかなり難解なものもありましたが、翻訳ボランティアのみなさんの協力で非常に質の高いものができました。ドイツNGOのアチェさんの記事“We are all the public”(私たちはみな公衆である)では、バイオセーフティの普及には、適切な情報へのアクセスと公衆の参加がそれを促すこと、科学者も消費者も“公衆”であるという主張が特に印象に残りました。

・10月15日(金):MOP5最終日。補足議定書は無事採択。MOP5は終始和やかなムードだったと言えます。並行して、午後からCBDアライアンスによるCOP10に向けたNGOガイダンスが、また、国際先住民族フォーラム(IIFB)による戦略会議も始まりました。

・10月16日(土)−17日(日):会場内の参加者も増えてきていよいよCOP本番という雰囲気になってきました。CBDアライアンスによるCSO(市民社会組織=国・産業界・研究者などを除く市民組織:日本ではNGOとほぼ同義)の開会声明作りなどが、海外と日本のNGOの共同で進められました。

(写真右)NGO戦略会議の様子。COP10開催直前に行われた。世界各地から集まったNGOメンバーが、「Top10 issue for COP10(COP10における10の課題)」などを議論した。


・10月18日(月):
COP10初日。『eco』Vol.35 issue 1 発行。「生命はビジネスではない」はこれからの会議に対し、締約国がCBDの理念を忘れないよう訴える記事。そのほか日本のユースのメッセージ、CBD市民ネットのCSO宣言への署名の呼びかけなど、日本人投稿の記事が多く掲載されました。

・10月19日(火):
『eco』Vol.35 issue 2発行。CSOの開会声明、IIFBの開会声明の抜粋、海洋保護区の記事などを掲載。開会声明は初日のプレナリー(総会議)でNGO代表が発表する予定でしたが、各国の開会声明が長引いて時間がなくなったため延期に。この記事の標題「Mother earth〜」の文章はこの声明文の最後の決め言葉です。

・10月20日(水):『eco』Vol.35 issue 3発行。「地球の持続可能性に向かって」の記事では、国連が設置を発表した「地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル」についてのコメントとして、競争から協力へ、個人の利益から社会的利益へ、均一なものから多様なものへ、といった根本的な価値観の転換を訴えています。これを読むまでそのような発表についても知りませんでした。『eco』の情報の幅広さと深さには感服します。上関原発工事に抗議した交流フェアブースでのハンガーストライキの記事も掲載されました。

・10月22日(金):『eco』Vol.35 issue 5発行。この日、会議全体の中間とりまとめのプレナリーにおいて、初日にできなかったCSOからとIIFBからの声明がやっと発表できました。CSOの声明では、この会議を“生物多様性のコペンハーゲン”にしないでほしいと訴え、また、今進行しつつある悲劇として上関での原発開発工事に対する懸念も急遽追加されました。これは、上関の関係者による必死の訴えに市民社会全体が共鳴した結果であり、「温暖化対策に原発を」という安易な議論への警鐘の意味もあります。この後、(この声明との因果関係は不明ですが)現地の工事は一時中断されました。

・10月25日(月):
『eco』Vol.35 issue 6発行。COP10とコペンハーゲンをもじって、“Cop10hagen”(コップテンハーゲン)とし、気候変動削減策REDDとグリーン経済にも懸念を表しています。また別の記事では、バイオ燃料のコンタクトグループにおける共同議長(カナダ・コロンビア)の横暴ぶりを告発しています。ちなみにCOPはプレナリーと2つの作業部会(WG Ⅰ・WGⅡ)で議論が行われますが、COP10ではさらにイシュー(課題)ごとに「コンタクトグループ」「フレンズ・オブ・チェア会議」「非公式会合(ICG)」など、最多で合計8つの小委員会も並行して開催されていました。
さてこの日、CBDアライアンスを中心としたCSOは、COP10で生物多様性の損失に最も貢献する最悪国としてEUとカナダに“ドードー賞”を授与しました。この評価はABSコンタクトグループでの議定書の拘束力を弱めようとする態度など、さまざまな議題での総合評価によるものです。

・10月27日(水):『eco』Vol.35 issue 8発行。CSOはこの日から始まるハイレベルセグメント(閣僚級会合)に合わせて会議進捗状況を項目別に評価し、推進と妨害する国を発表。ちなみに日本の名前は出てきません。ホスト国日本は、いい意味でも悪い意味でも、ここまでのところあまり存在感はなかったということでしょうか。

・10月28日(木):
『eco』休刊。閉会まであと2日なのに、ABS議定書も戦略計画もいまだに多くの[ ]ブラケットが残ったままで合意点が見えてこないことに、本当に“Cop10hagen”になってしまう・・と誰もが不安になってきました。ABS議定書について、日本政府はCBD事務局と連携し、議長提案への一本化を始めたようでした。

・10月29日(金):COP10最終日。『eco』Vol.35 issue 9発行。CSOはCOP10名誉者リストを発表。日本に対しては“素晴らしいホスト”という言葉と共に、“最も大きな矛盾”として里山イニシアティブを推進する一方で上関や沖縄での開発による里山破壊を指摘しています。パーティー押しかけ屋=非締約国USA(見えざる影響大賞もノミネート)など、皮肉もたっぷりです。最後にハイレベルセグメントに対する意見として、気候変動枠組み条約(UNFCCC)では、生態系は取引可能な炭素吸収源となってしまう、工業的でない農業や生態系に配慮した生産を行うことが地球を冷やすことになるとし、再び“母なる地球はお金では買えない”という言葉で締めくくっています。

(写真右)拍手する人、腕組みをしたままの人
名古屋議定書・愛知ターゲット・資金動員が採択され、スタンディングオベーションする参加者たち。「心からおめでとう」というよりは「ようやく終わった」というのが本音でしょうか。一方で内容に納得できず、さりとて合意を妨げることもできなくて腕組みを解かない人も。

さてこの日、ABS議定書に関する議長提案が午前中に各国に非公式に提示され、また、戦略計画を話し合うWG Ⅱでは、午後になってもまだ議論がつづき、ほとんどエイヤッの状態でプレナリーに突入しました。午後3時過ぎから始まったプレナリーでは、異論の出そうにない議案が次々採択され、「国連生物多様性の10年」決議(11月号第5回参照)や水田の生物多様性に関する記述を含む「農業生物多様性」決議など、CBD市民ネットからの提案を含むものも無事採択。次回COP11開催地がインドに決定したところで、インド政府主催のレセプションのために一時休憩に。予定より3時間半以上も遅れて午後11時(!)から再開された会議は日付が変わってもつづき(ヨーロッパ時間ではまだ当日ということ?)、午前1時30分、ABS議定書は“名古屋議定書”として、戦略計画は“愛知ターゲット”として採択されました。議長を務める松本環境大臣によって採択の木槌が振り下ろされると長い拍手が続き、その後は各国からのお祝い声明、議長のあいさつ、最後にジョグラフ事務局長のあいさつで夜は更けていきました。

・・・COP10での最大懸案であったABS議定書、新戦略計画とも採択され、日本は議長国として面目を保ちました。それとともに当然、今後、日本は率先して名古屋議定書を批准し、国内法を整備しなくてはなりません。愛知ターゲットにしても同様で、生物多様性国家戦略に具体的な目標を書き入れなくてはいけないし、名前を冠した愛知県も(COP3後の京都のように)県として目標を策定し、国内政策をリードするべきでしょう。それにはもちろん、市民の参加が必要です。国内のどの地域でも市民の参加による生物多様性地域ターゲットの策定を実施し、市民と行政・企業が一体となって進めることで、はじめて生物多様性が浸透していくのです。私たち日本の市民社会がどれだけがんばるか、議長国の責任が継続するこれからの2年間が特に重要であり、インドで開催される2012年のCOP11で胸を張れるようにしたいものです。さらに“国連生物多様性の10年”提案国として、世界をリードする義務もあります。

(写真右)ホストNGOのバトン
COP9最終日にドイツのNGOから託されたオブジェは、COP11開催地のインドNGOへと引き継がれた。インド・日本・ドイツのNGO代表が記念写真。

今回のCOPは目に見える成果があったことで、そればかりが注目されています。しかし私自身は、気候変動枠組み条約UNFCCCが経済問題として取り上げられ、森林も農業も全てがお金の問題として進められていくことに対して、生物多様性条約CBDが歯止めとなる可能性が見えたという印象を受けました。今後、さらに両方の条約に注視するべきでしょう。

・・・ECO翻訳プロジェクトをやり遂げるにあたり、翻訳ボランティアの方々からなんの保障もないのに信用してもらい、献身的な協力をいただいたことが何よりありがたいことでした。また、最初はECOの翻訳について特に何の期待もしていないようすであったCBDアライアンスのメンバーが、途中からこの翻訳についてとても感謝してくれるようになったことが、予期していなかった喜びでした(開催国の母国語に翻訳されたのはCOP史上初めてのこと)。想像ですが、市民社会の声を会議場の中だけでなく、外にも伝えることの大切さを認識したのかもしれないと思います。

地球環境保全のためにこれから必要なのは、右肩上がりの経済成長ではなく、市民が“正義”を掲げて声を出すこと─これがCOP10の経験から私が得たメッセージです。

CBD-COP10/MOP5で決議されたこと

■名古屋−クアラルンプール補足議定書
カルタヘナ議定書の「責任と修復」を補完する議定書。輸入された遺伝子組み換え生物(LMO)や遺伝子組み換え作物(GMO)が、生態系へ損害を与えた場合の原状回復や賠償などのルール。

■ABS名古屋議定書
遺伝資源へのアクセスと利益の衡平な配分(ABS)に関する、法的拘束力のある議定書。遺伝資源だけでなく、その利用に関する伝統的知識も対象に。ただし病原体など、緊急性を要するものは対象外。

■愛知ターゲット(新戦略計画)
生物多様性の損失を食い止めるための新しい目標。2020年までに具体的な行動を起こすこととし、保護区を陸域17%、海域10%を目標とするなど、20の個別目標を定めた。中長期目標として2050年までのビジョンも明示された。

■国連生物多様性の10年
2011年からの10年間を“国連生物多様性の10年”と定めるように、国連総会で採択するように勧告することを決定。そのほか合計47の決議が採択された。

『eco』の翻訳の他に、CBD Fact Sheets(30個のKey words)を翻訳しましたのでWebでご覧ください。eco翻訳版はこちら CBD Fact Sheets翻訳版はこちら
※環境省報道発表はこちら

参考:NACS−J事務局日誌(会議場での様子など)こちら

(みどりのニュースレター 2010年12月号 No.211より)

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