21世紀、地球を、地域を、生活を、持続可能な豊かさに
8 パートナーシップ組織の構築
杦本育生(環境市民代表理事)
8 パートナーシップ組織の構築
パートナーシップの内容や進展によっては各主体が協働するにとどまらす、共同でパートナーシップ活動を推進していくための組織をつくることもおこる。イギリスにおいて環境調和型の再開発を行う「グラウンドワーク」はその一つの典型である。ここでは国内事例として京都市のローカル・アジェンダ21*の策定と実行組織である「京(みやこ)のアジェンダフォーラム」をとりあげて、その意義とあり方について考察してみる。
「京のアジェンダ21フォーラム」は98年11月23日にスタートした。日本でもある程度の自治体でローカル・アジェンダが作られてきているが、本格的に市民、事業者が参画した実行組織がつくられたのは初めてと言っていいだろう。京都市でも、実際にアジェンダを策定することを最終的に決意したのは地球温暖化防止京都会議(COP3)の開催が決まった後であり、早くはない。ただそれからの取組みとアジェンダの内容は日本の多くのアジェンダとは異なった。まず策定の中心になった「京のアジェンダ21策定委員会」の委員の人選は市の環境保全室(現:環境局)が行ったが、NGOや専門家の意見を積極的に取り入れたため、実行力に裏打ちされた構成となった。議論は常に伯仲し、当初は内容だけはなく運営方法まで事務局とNGOを中心とした委員とで激論となった。市が当初考えていたセクター別の小委員会は、アジェンダの本旨であるパートナーシップを阻害するものとして退けられ、課題ごとの小委員会になり、しかも委員はどの小委員会にも参加できることとした。また委員会は、事業者セクターが資料を出しにくくなる等から理由で条件付き公開を考えられていたが、委員会全員の合意として基本的に全面公開に切り替えられた。しかし激論はお互いの理解を生み、優れたアジェンダをつくろうという共通の意欲へと昇華されていった。事務局の作った原案に沿って議論がすすむ通常の審議会とは異なり、全面公開のもとで行われた検討委員会では、委員自ら資料を用いて原案をつくりワークショップを行い課題を整理していった。傍聴者や市民からの意見も求めた。もちろん十分に市民参加がなったとは評価していないが、このような運営が本格的な市民参画への礎が築くことにつながったと考えられる。
内容面でも、日本の他の多くのローカル・アジェンダとは一線を画している。他のアジェンダはほとんど環境行動計画と同義語となり、市民、事業者、行政各々が「自主的に」取り組む日常行動を単に並べられたものになっているものが多い。例えば市民は「洗濯はまとめ洗いましょう」「アイドリングストップに努めましょう」であり、事業者は「紙類の使用を少なくしましょう」「OA機器の適正な利用に努めましょう」である。京のアジェンダ21では、環境と共生する持続可能な社会を実現するために、近未来の京都を描く積極的なシナリオづくりを行い5つの重要取組としてまとめた。「省エネルギー・省資源のシステムづくり」「グリーン・エコノミック・ネットワークづくり」「エコロジー型新産業システムづくり」「エコツーリズム都市づくり」「環境にやさしい交通体系の創出」である。カタカナが多く言葉も美しいとはいえないが、環境面だけでなく経済、生活、まちづくりなど、京都をより素晴らしくしていこうという意欲を表している。このようにして京のアジェンダ21は97年11月に策定を終えた。
そしてこの内容を具体化し、実行していく責任システムとして、市民、事業者、市がパートナーシップで組織する「京のアジェンダ21フォーラム」を立ちあげていくことにした。京のアジェンダ21策定委員会の委員は、自ら責任を執る形でフォーラム準備会を形成して1年間の検討準備をすすめてフォーラム立ち上げをおこなった。「計画」策定後の実施運営に関しては行政が中心になることが日本では通例であるが、それではどんな計画も「絵に描いた餅」になりがちである。京のアジェンダ21フォーラムはその轍を踏まないようにした。
京のアジェンダ21フォーラムは、アジェンダでかかげた重要課題を現実に実行する機関として位置づけられている。このフォーラム組織は会員制をとっているが、これはアジェンダに取り組む人々、団体に自主性を求めているからである。会員は意志のある人、団体なら誰でもなれる。京都市民という限定もない。具体的な活動を行っていくのは必要に応じてつくられるワーキング・グループである。このワーキンググループには会員なら誰でも入ることができる。ワーキンググループは交通、エコツーリズム、グリーン経済など重要テーマごとに設けられるほか、地域ごと、青年や女性などセクター別のものも将来的に設置を予定している。ワーキンググループが適切に活動できるように支援し、またグループ間の調整を行い、具体的な戦略を練る機関として「計画推進委員会」がある。ここは京都市内のNGO、民間団体、事業者団体などからの委員及び行政の委員で構成されている。戦略的に活動できるように、計画推進委員が1名以上各ワーキンググループに参加することにしている。また近い将来にワーキンググループで実際に活動する人から計画推進委員が選出されるように委員枠に余裕をもたせている。また設立時の組織運営を円滑に行っていくため総務企画と広報のタスクチームが設置された。
幹事会は、フォーラム全体の戦略と運営にあたる責任機関である。幹事も京都市内のNGO、民間団体、事業者団体、行政及びマス・メディアから各々でている。幹事の半数以上は計画推進委員が属する団体から選出することにしているが、これは確かな推進委員会と連携を図るためと実際の活動を責任あるものにするためである。事務局は、市民、事業者、行政から事務局員を出して構成することになっている。ただ99年3月現在では発足直後であり、経費等の課題から市民、事業者からの事務局員は出ていず、早急な対応が必要とされている。
この組織からもみれるように、京のアジェンダ21フォーラムは市民、事業者、行政のパートナーシップを運営の基本としており、三者の相乗的な効果を狙ったものである。しかしこれは言い換えれば、三者が各々異なるが共通の責任を負っていることであり、もし相手任せになったり、お互いのマイナスを言い争うようなことになれば、組織自体が崩壊することになる。互いに実行しやすいことをバラバラに行動するのではなく、目的を共通化し、具体的で系統だった活動を構成していく必要がある。このように京のアジェンダ21フォーラムは、形成される段階もパートナーシップの好事例となっているが、これからの実行段階が、日本のパートナーシップ組織の本格的実践として注目すべきものである。
*アジェンダとは「課題」という意味であるが、アジェンダ21は1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」(地球サミット)において採択されたもので、21世紀に向けて持続可能な開発を実現するための行動課題を整理したものである。そのアジェンダ21の第28章で「アジェンダ21で提起されている諸問題及び解決策の多くが地域的な解決に根ざしているものであるから、地方自治体の参加及び協力が目的達成のための決定的な要素となる」として世界の自治体に96年までに市民と合意してローカル・アジェンダ21を策定するように求めている。スウェーデンのように全ての自治体で既にローカル・アジェンダの策定を終え実行している社会もあるが、日本はまだ策定していない自治体が多い。
経済企画庁国民生活局編集「パートナーシップでつくる環境調和型ライフスタイル」(1999年発行)、第4章 市民(市民活動団体)、企業、行政の連携に向けて 「2.市民活動と行政、企業とのパートナーシップ(環境市民 本育生)」(88ページ)から引用