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第5回 世界に向けて発信される日本NGOからの提案
We support the UN Decade on Biodiversity proposed by Government of Japan
私たちは、日本政府が提案する『国連生物多様性の10 年』を支持します
文/ 「ECO」日本語化プロジェクト コーディネーター 原野 知子
・・・今年、2010年は国連の定めた「国際生物多様性年」です。国連関連機関はもとより、たとえばサッカーのワールドカップ開催に伴ってアフリカの生物多様性保全キャンペーンが行われるなど、世界中で生物多様性の保全に関わるさまざまな取り組みが進められています。こうした取り組みの一環として、9月にニューヨークで開催された第65回国連総会で、「国際生物多様性年ハイレベル会合」も開催されました。これは国連で開催された、生物多様性に関する初めてのサミットです(せっかく声明を読み上げるチャンスがあったのに、首相でなく外相が担当したのは残念というか、「生物多様性」の政府内における優先順位の低さの表れかと思ってしまいましたが)。
この生物多様性サミットに向けて、生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)の国連生物多様性の10年作業部会が声明を発表しました。そのタイトルが、冒頭の一文です。
ふだんは政府にもの申しているはずのNGOが、政府提案を支持する声明を出す…ちょっと不思議な感じですが、今回はそのいきさつを紹介します。
・・・原案はNGOが提案
COP10を1年後にひかえた昨年の9〜10月、各地でCOP10の“1年前イベント”が開催されました。そのシンポジウム1つで、あるNGO関係者がこんな発言をしました。「2010年は国際生物多様性年だが、その取り組みをたった1年で終わらせてはいけない。生物多様性のこの危機的状況をなんとかするには、少なくとも10年間は継続しなくては。そのために国連が主導して“生物多様性の10年”を制定すべきだ」と。この提案に、会合のコメンテーターであった国際自然保護連合(IUCN)関係者はじめ、出席者全員がナルホドと膝を打ちました。
その後、CBD市民ネットの運営委員らが中心となって、CBD条約事務局や日本政府に働きかけた結果、5月に開催された生物多様性条約の準備会合で、COP10での正式議案として“日本政府”が「国連生物多様性の10年決議」を提案しました。締約国の中には消極的な反応を示した国もありましたが、CBD市民ネット関係者らのロビー活動の成果もあって、この議案は採用されました。NGOの活動が、政府や締約国を動かしたのです。
10月に名古屋で開催されているCOP10でこの決議が採択されれば、日本政府とCBD条約事務局が12月の国連総会で「国連生物多様性の10年」決議案を提案し、採択を求めることになります。
・・・なぜ「10年」?「なぜ国連」?
ところでこの提案が「10年」である理由は、「1年だけで終わらせない(長く続ける)」だけではありません。5月に発表されたGBO3(地球規模生物多様性概況 第3版)は、COP6(2002年)で定められた「2010年目標」の21の個別目標が1つも達成できなかったとしたうえで、これからも大規模な生物多様性の損失が予測され、今後10〜20年間の取り組みの強化が特に重要だ、と指摘しています。また、COP10では「ポスト2010年目標(新戦略目標)」も議論されますが、そこでも“2020年までの短期目標”が挙げられています。「10年」の提案にはこうした背景があるのです。
そしてなぜ「国連」なのか。“生物多様性”は自然保護だけでなく、貧困・開発、貿易、一次産業などと深いかかわりがあるため、生物多様性条約以外のあらゆる国連機関やさまざまなセクターのステークホルダーと連携した働きかけが必要です。さらに、“CBD非締約国であるアメリカ”の取り組みを促す必要もあるのです。
・・・NGOイニシアティブ
CBD市民ネットは、COP10会場で各国のNGOに「NGOイニシアティブ」の賛同を求めています。これは、「国連生物多様性の10年」決議を支持してもらうだけでなく、新戦略目標の達成に向けてその賛同者自らが行動することを促すためです。
条約会議や国連総会ではNGOが直接議案を提出することができません。しかし、ロビー活動を通じてNGO案を政府から提出してもらうことは可能ですし、逆に市民社会の声を無視した政府提案には強い抗議(たとえば「ECO」への意見掲載や共同声明など)によってそれを修正することも可能です。しかしそのときに大切なのは、「批判のための批判」になるのではなく、自らが先頭に立って行動する覚悟が必要なのです。
CBD市民ネット「国連生物多様性の10年NGOイニシアティブ」
(みどりのニュースレター 2010年11月号 No.210より)