伝統と経済のぶつかるところ(後編) | 認定NPO法人 環境市民

伝統と経済のぶつかるところ(後編)

このコーナーでは、ウェブやメールマガジンの企画運営を行っている「電子かわら版チーム」メンバーのコラムを紹介しています。一緒に企画運営をしたいボランティアも随時募集中です。関心のある方は京都事務局まで。

伝統と経済のぶつかるところ(前編)

これまで、変わりゆく街並みの中で、
何とか町家を保存しようと努力し続けてきたのも、また京都市民なのです。
京都市は、街並み保存を呼びかける一方で、
所有者に対して保存行為にかかる費用や税負担の軽減には、
それほど積極的ではありませんでした。
重要文化財級の室町期の京町家に対してさえそうです。
最古級京町家消失「京都市に失望」元所有者自ら選んだ解体の道

京町家には時代のそれほど古いものは少なく、
多くは明治~終戦前の建築です。
室町期の貴重な町家ですら上記のような扱いです。
やはり所有者の負担を考えれば、今の内に売却せざるを得ない、
という気持ちになるのもやむを得ません。

また、地価の上昇は家賃の上昇ともつながるので、
住民が街中に住み続けることが困難になります。
実際、京都市では2017年に7年ぶりに転出超過に陥りました。
特に子育て世代の転出が多く、人口の空洞化への懸念が高まっています。

富裕層向けのホテルが増え、簡易宿所や民泊が増え、観光客は増え続けるも、
その街を作る住民が減っていくということは、果たして健全なことなのか。
バルセロナやアムステルダムなど、
世界の観光地で同じことが報じられているところですが、
観光都市はそこに歴史をつなぐ人がいてこそではないのか。
実は、増え続ける京都の簡易宿所ですが、
ここへきて廃業数も増加しており、今年度は11月までの8ヶ月間で、
既に昨年度一年分の廃業数の3割増しで推移しているとの記事も出ています。
京都の簡易宿所、廃業急増 供給過剰で淘汰の波

一時の経済的利益を追い求めることで、
100年先の利益を失うことになりはしないか、
バルセロナよりもアムステルダムよりも歴史を誇る町であるならば、
遠くを見据える必要があるのではないでしょうか。

今、不動産屋が先を争って利益を追い求める時に、
彼らにこの町の未来へのビジョンなどあるのでしょうか。
早い者勝ちで土地を買い、古い建物を壊し、新たな建物にして高値で売る。
「古都京都の文化財」として登録される17の資産の内、
京都市内に存在する14の資産の他、残らず現代建築になった時、
果たしてこの町に「古都」としての価値は残っているでしょうか。
その時この町は、新たな文化を生み出し、
新たな「都」としての地位を保ち得るでしょうか。

「歩くまち・京都」憲章を定め、車中心の社会からの脱却を目指し、
歩く魅力を満喫できるようにし、人が主役の魅力あるまちづくりを推進する、
と高々と謳うこの町の理想は、環境市民の目指す社会の在り方と相通じるものです。
「歩くまち・京都」憲章

しかし現実は、その憲章からも遠く離れたところに向かおうとしています。
新しい年の始まりに、自分たちの暮らす街のこと、
自分たちの暮らし方そのもの、未来の世代に残すものを、
一人一人が考え、周りの人達と共有し、
選び取っていく必要があるのではないでしょうか。
(はるかぜ)