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夏にひたって生きる
カテゴリ: 電子かわら版コラム | 更新日:
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おそらくもう10年以上前、環境市民のニュースレターの書評
のコーナーに、「たんぽぽのお酒」という本を紹介したこと
がある。ある少年の一夏の体験をみずみずしい筆致で描いた
レイ・ブラッドベリの名著だ。
当時の私は、毎年夏になると必ずこの本を読み返していた。
そのたびに体の中が夏で満たされ、他のどの季節とも異なる
生命が充ち満ちた夏の香りが自分の中を駆け巡る感覚に浸っ
ていたものだった。
その後、仕事が忙しくなるにつれ、本を読む時間とともに
季節を味わう余裕もなくなり、今年はあの本を読めていない
なと心をかすめる乾いた感覚にも慣れてきてしまっていた。
ところが今年、田舎へ引っ越して田んぼと畑を始めたら、
あの夏の感覚が戻ってきた。
真夏の日差しの中を野で過ごしながら、何度も思い出すのは
「たんぽぽのお酒」で読んだ様々な場面。一人ひとりの登場
人物の言葉や想いが、夏の躍動的な息づかいにのって私の中
にくっきりとよみがえってきた。
それは、「私は生きている」というあの本の主題だった。
農作業が忙しすぎて、本を読み返すひまは結局なかったのだ
けれど。
私が長らく失ってしまっていた、いのちとしての感覚。
農に取り組むことで、近年になく、生命の季節を身体の外
から内から感じとり、体全体で生きる感覚を味わい尽くした
夏になった。
(げの字)