食でできる省エネ 第2回食べ物のごみを減らすことの「省エネ効果」 | 認定NPO法人 環境市民

食でできる省エネ 第2回食べ物のごみを減らすことの「省エネ効果」

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

食でできる省エネ
第2回 食べ物のごみを減らすことの「省エネ効果」

《食の環境配慮を、脱原発を進める力に!》

昨夏、節電が強く求められました。今冬、さらには今年の夏も引き続き節電が求められています。昨夏の節電では、誰もがたいへんな思いをしましたが、原発事故のため火力発電の比重が増したため、天然ガスをはじめ化石燃料の消費が増えました。その分、二酸化炭素(CO2 )の排出も増えています。であれば、どこかで「省エネ」が必要です。その役割の一部を「食の環境配慮」が担えることを明らかにしたくて、このシリーズを書き出しました。
もちろん、「食の環境配慮」は、直接「節電」には貢献できません。しかし、食べ物の生産、輸送、廃棄には、多くのエネルギーを必要としています。食べ物の選び方に、少し環境配慮の視点を盛り込めば、大きな省エネ効果を生み出すことができます。原発を止めることで消費が増える化石燃料を、「食の環境配慮」で少しでも減らせるとしたら、「食の環境配慮」は脱原発にも貢献できるわけです。
  ただ、その効果をわかりやすく紹介した資料になかなか出会いません。このシリーズでは「食の環境配慮」の効果を、伝えていこうと思います。

 

《今回は、食品ごみを減らすことの「省エネ効果」》

前回の「食料自給率」の「まとめ」として、下記をあげました。
・先進国はすべて食料自給率が低いわけでなく、多くの先進国が、食料自給率の維持・向上に努めている。
・日本の食料輸入額は、輸出を引いた純輸入額で3兆円強。世界一。
・現状、先進国が世界の食料を支えていて、その分担は今後ますます大きくなる。
・途上国も工業化が進めば、海外に食料を求めるようになる。
  世界中から大量に食料を輸入して、私たちは大事に使っているでしょうか。食料自給率の低い国で、「食のムダ」は大きな問題です。今回は、「食品ごみ」を取り上げ、その実態を明らかにしたうえで、「食品ごみ」を減らすことの「省エネ効果」を紹介します。

 

《食品ごみは家庭ごみのチャンピオン》

家庭ごみ(生活系ごみ)に含まれる食べ物ごみは、どれほどになるのでしょう。京都市は、京都大学環境科学センターの協力を得て、家庭ごみをはじめ市内で排出されるごみの組成等について、詳細な調査を長年にわたって続けています。京都市や環境省の調査データをもとに、私たちが排出している食品ごみの実態を見ていくことにしましょう。
  図1は、京都市の家庭ごみに含まれ「厨芥ごみ(生ごみ)」の比率の推移をあらわしています。2010年は、家庭ごみの37.2%が「厨芥ごみ(生ごみ)」となっています*1。
  この数字は平成に入ってからでも、2004年の39.5%から2006年の29.9%まで、年度によって開きがあります。1996年から2010年までの15年間を平均すると、36.8%になります。

*1「京都市環境政策局事業概要」平成23年版より(データは2010年)


図1 家庭ごみに占める厨芥類の割合
 

図2 家庭ごみの物理的組成

《手付かず食品ごみがこんなに…》

図2で「生ごみ」の内訳をみると*2、調理くずが5割強で最も多く、次いで食べ残しが4割近くあることがわかります。しかもこのなかには「手付かず厨芥」があります。開封もされず、かじりもしていない食べ物ごみです。
  2007年の調査では、家庭ごみに占める厨芥ごみの割合は30.7%、うち手付かず厨芥が22.2%。つまり家庭ごみ全体の7%近くが手付かずの食品ごみだったことになります。

*2「京都市における循環型社会構築に向けた取組」京都市環境政策局

図3 家庭からの生ごみの細組成
「京都市における循環型社会構築に向けた取組」京都市環境政策局 2011年10月28日より

 

《賞味期限にも達していないのに…》

この手付かず食品ごみのなかには、賞味期限に達していない食品が、2割もあります。賞味期限は「消費期限」と違い、おいしさや品質の保証期間であり、それを過ぎれば食べられない期日の表示ではありません。
  そもそも、手付かず食品ごみは、あってはいけないごみであり、それがこれほど出てくること自体驚きですが、賞味期限にも達していない食べ物が大量に捨てられていることには、驚きを超えて、言葉がない思いです。

図4 手付かず食品ごみと賞味期限の関係

 

《日本の食べ物ごみ総量は1,900万トンと言われているが…?》

日本の食品ごみの総計がどれだけになるか、農水省が2008年に出した「食品ロスの現状について」によると、2005年度のデータで一般家庭から約1,100万トン、食品関連事業者(食品製造業、小売業、外食産業)からも1,100万トン発生していると推計しています*3。ただし、その中には、飼料や肥料として有価で転用されるものが300万トンほどあり、それを除いた800万トンが食品関連事業者から出された食品ごみとされています。
  家庭から発生する1,100万トンと、食品関連事業者から発生する800万トンをあわせた1,900万トンが、日本の食品ごみの総量として、様々な報告などに引用されています。
  ちなみに、同じ年、国内で生産された食料は6,109万トン、輸入量(輸出量を差し引いた量)が5,754万トンで計11,723万トン。うち2,655万トンは家畜などの飼料に使われ、食用に使われた食品は9,068万トンとされています*4。そのうち1,900万トンがごみになったと考えると、その割合は、2割以上になります。

*3「食品ロスの現状について」農林水産省 2008年8月8日より
*4 前掲資料 ただしこのなかには石けん原料などに用いられた油脂も含まれている。

 

《データを更新すると、食品ごみは3,000万トン以上》

日本の食品ごみのデータとして、先にあげた「2005年(平成17年)の1,900万トン」が、よく引用されています。しかしながら、2010年に食品廃棄物の調査方法が変わり、食品産業からの発生量が跳ね上がるように拡大しています。
  2011年8月、農水省の食品リサイクル小委員会に出された資料*5によると、2009年の食品産業からの食品廃棄物の発生量として2,271.8万トンという数値が掲載されています。2005年のデータとして示されている1,100万トンの倍以上になります。
家庭から排出される食品廃棄物の総量は、2005年データでは1,100万トンでした。この数値は家庭ごみ総排出量3,647万トン*6の30%に相当します。同じように2009年の家庭ごみの総排出量3,297万トンに30%をかけると、989万トンになります。これに食品産業からの発生量(2,271.8万トン)をあわせると、日本の食品ごみ総量は、3,200〜3,300万トンということになります。
  ここから飼料や肥料に転用された分が相当量あるとしても、それはごみとして排出された後の転用です。ということは、国産・輸入あわせた全食料の約3分の1が、食用に使われず、ごみになっているということです。

図5 食品産業から排出される食品ごみ
 

*5「食品廃棄物等の発生量等について(2011年8月10日食品リサイクル小委員会にて公表)」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyunkan_sigen/index.html
*6「日本の廃棄物処理」平成21年度版 環境省 2011年3月より

 

《ごみになった食品のカロリーは…》

実際に廃棄された食品ごみをもとに、個々の食品の熱量(カロリー)を推計し、積み上げた調査は見当たりませんが、国内で消費された食品(国産・輸入の計)の供給熱量と、実際に摂取された食品の熱量を比べ、その差を1人当たりに換算すると、食べられずに廃棄された食品のカロリーが推計できます。
2つの熱量のうち、供給熱量は農林水産省、摂取熱量は厚生労働省の試算*7で、それぞれの調査方法や算出方法が異なるため、単純に比較できない点は注意が必要ですが、参考にはできます。これをみると、1965年当時国民1人1日当りの供給熱量は2,497kcal、摂取熱量は2,202kcalで*8、両者の比率は100:88でした。年々2つのデータの差は広がり、2005年には2,573kcalと1,851kcal 、その差722 kcal まで拡大しました(比率100:72)。
2009年には2,439kcalと1,861kcal(差578kcal)にまで縮小していますが、1人1日当たり、600〜700kcal分の食品のロスが出ていると推計できます。

*7 供給熱量は農林水産省「食料需給表」、摂取熱量は厚生労働省「国民健康・栄養調査」より
*8 摂取熱量には酒類は含まれていません。

 

《世界の慢性栄養不足人口》

2009年10月、国際連合食糧農業機関(FAO)から、「2009 年の慢性栄養不足人口が世界人口のおよそ6分の1にあたる10億人を超えた」との発表がありました*9。1990年代から2000年代半ばまで<栄養不足人口は8億人台で推移してきましたが、わずか数年で1億数千万人も増加しています*10。経済成長を遂げている新興国もありますが、世界全体でみれば、満足な食料にありつけない人の数は増えています。
「食でできる省エネ」をテーマにしていますが、省エネ効果の大きさ以前の問題として、世界に10億もの栄養不足の人がいて、一方、私たちの社会は、多くの食料を輸入し、全食料の3分の1をごみにしています。このことについて、私たちは、真剣に向き合う必要があるでしょう。

*9 FAO Newsletter Aug.2009Vol.41より
*10 FAO「Food Security Statistics」より

《食品ロス相当のカロリーで何ができるか》

先に、食品ロスをカロリーで表すと1人1日あたり600〜700 kcal になると紹介しました。600〜700 kcalと言えば、1人1日の平均摂取熱量の3分の1程度になります。これだけでも大きな値ですが、熱量を電力量に換算して、身近な電化製品を動かす時間に例えてみるとどうなるでしょうか。
「860.4kcal =1kWh」の定義値を用いると、700 kcalは813Wh に換算できます(1,000kcalは約1.16kWh)。この電力量で400リットルクラスの冷蔵庫をまる1日以上動かすことができますし*11、液晶32V型のテレビであれば、4日以上視聴することができます*12。コマメな節電をはるかに上回る省エネルギー効果を、「食の環境配慮」が持っていることに対して、今まで以上に注目されてよいのではないでしょうか。

図6 700 kcalを電気エネルギーに換算すると…

* 11 資源エネルギー庁発行「省エネ性能カタログ2011冬号」より(p.40)
庫内容量401〜450L間冷式冷蔵庫の平均使用電力量270kWh/年=1日あたり740Wh/日。
812Whは約1.1日分の電力量に相当
* 12 出典は同上(p.28)。液晶32V型テレビの平均使用電力量は72kWh/年=197Wh/日。
812Whは約4.1日の視聴時間に相当(1日あたり視聴4.5時間、待機19.5時間で計算)。

 

《私たちにできること》

図5を見てもらうとおわかりのように、食品ごみの内訳では、食品製造業から排出されるものが圧倒的に多く、家庭で食品ごみを減らして得られる省エネ効果は、実際のところ、前項で例示した「効果」の数分の1です。しかしながら、家庭から排出される食品ごみ約1,000万トンは、スーパーやコンビニの売れ残り食品、レストランの食べ残しなどの合計約500万トンの2倍であり、個人の家庭からの排出量もバカにならないことを、あらためて感じさせられます。
  私たち消費者にも食品ごみを減らす責任があるわけですが、「食品ごみ減らし」と言えば「生ごみ堆肥化」を思い浮かべる人もいます。ただ、生ごみ堆肥化は「出たごみの活用」ですので、「食品ごみ」そのものが減るわけではありません。
  当たり前のことですが「必要量の購入」は 、食品ごみの発生そのものを減らすのに、とても大切なことです。「当たり前すぎて何を言っているのか」と言われそうですが、図7の写真を見てください。先に紹介した、家庭ごみから出てきた「手付かず食品ごみ」の写真です。数字だけでなく写真で見ると、とてもインパクトがあります。食品に限ったことではありませんが、「必要なものを必要なだけ購入する」といった当たり前のことができていないことを、この写真はあらわしています。このなかには、先に紹介したように、賞味期限に達していない食品が2割以上含まれています。

もうひとつ、食品ごみ減らしのヒントを見てもらいましょう。図8は食べ物をテーマにしたワークショップで使っているスライドの1つです。「あなたのごちそうさまはどれ?」と尋ねたら、ほとんどの人が「3」に手をあげます。でも、実際にはどうでしょうか。「外食の時は…」と尋ねると、「1の場合もある」という人が多くなります。。

つい、食べられる以上に注文したり、バイキングだったら、お皿いっぱいに盛って残したり、宴会だったら食べ残しが出るのが当たり前だと思っていたり…、そんなこともありますね。お店も食べ残りが出るほど出さないと「サービスがよくない」と思われないか不安に思っていることでしょう。「必要量の購入」はスーパーなど食料品店での買い物に限らず、外食にもあてはまります。宴会の場合は、参加メンバーの要望をあらかじめリサーチして、お店に量の加減をしてもらうとよいと思います。たくさん食べ残して宴会場を後にするより、完食して帰る方がずっと気持ちいいと思います。

まだまだ、食べ物ごみ削減の手だてはありますが、今回はこのあたりで終了いたします。次回は「旬の野菜を利用することの省エネ効果」をとりあげます。あわせて、旬の野菜の利用の変化も紹介しますが、ここにも様々な驚きがあります。

 

(第1回の「食料自給率」もぜひ読んでください。)https://kankyoshimin.org/modules/blog/index.php?content_id=187 

図7 家庭からの手付かず食品ごみ
「京都市における循環型社会構築に向けた取組」京都市環境政策局 2011年10月28日より

図8 あなたのごちそうさまはどれ?

 

第2回 食べ物のごみを減らすことの「省エネ効果」 以上