21世紀、地球を、地域を、生活を、持続可能な豊かさに
環境先進国ドイツの事例から ドイツの戦略から学ぶ 脱原発と再生可能エネ、 省エネの推進
カテゴリ: 脱原発 情報 | 更新日:
※以下の文章を引用する場合は必ず出典の明記をお願いいたします。無断でのご利用はかたくお断りいたします。
講演:ドイツ在住環境ジャーナリスト 村上 敦さん
この原稿は4月16日(土)に開催した、「緊急セミナー:地球に原発は いらない 脱温暖化+脱原発は可能だ!〜ドイツと日本の先進的な事例か ら〜」(開催場所:ひとまち交流館(京都市下京区))をもとに作成しま した。
省エネと再生可能エネルギーの普及
ドイツは2002年に制定された原子力法で、2022 年前後には原発を廃炉にする予定だったのを 2010年秋に、平均12年間延期することになりま した。これに対し、脱原発を望む7割の国民が30 万人規模のデモを起こしました。延期について ちょうど野党が法定で争おうとしていたときに福 島原発の事故が起こり、政府は即刻、1980年以 前に建てられた原発を全て緊急停止しました。 ドイツは脱原発をめざしているからといって CO2排出量が増えているわけではありません。 2010年秋、メルケル首相が政権をとり、2050年 にはCO2を95%削減することを目標に10年単位 でCO2を削減する戦略を明示し、すでに28.7%の CO2を削減しています。ドイツの消費電力中の再 生可能エネルギーによる発電は、1990年にはわず か3.5%でしたが、2010年には17%になりました。 さらに2050年までに60%を目標にしています。
ドイツが再生可能エネルギーを推進する背景には環 境や経済問題に加え、安全保障問題があります。すで にピークオイルを迎えた北海油田や、政情が不安定な 中東などの依存度を下げようとしています。
全量買取制度
再生可能エネルギーを推進するため、2000年には、 電力系統事業者が、再生可能エネルギーを20年にわ たって、全量を優先的に買い取らなければならないと いう「全量買取制度」がスタートしています。 同制度によって太陽光発電の普及が進み、その結 果、日本では太陽光パネルの設置に55〜65万円/ kWpかかるところ、ドイツでは半額の30万円前後で できるようになりました。ちなみに、ドイツが2010年 1年間で設置した量は、過去20年間に日本で設置した 量の2倍にあたります。
2050年までに50%省エネ年までに、エネルギー消費量を2008年比で50%削減することを目標としています(参照 下グラフ)。
もちろん、今ある消費エネルギーすべてを再生可能エネルギーで代替するよりも、大幅な省エネを実践したほう が、コストが低く、環境に優れているのは言うまでも ありません。では、住宅と交通での省エネの取り組み をみてみましょう。
出典:2010年9月ドイツ政府発表のエネ ルギー戦略より村上敦氏が作成
住宅の省エネ化も徹底
ドイツでは1984 年以降、住宅の断 熱機能の最低ライ ンを法律で義務付 けるようになり、 その数値は年々厳 しくなっていま す。現在では、断 熱材の厚みはおよそ20cmが義務化されています。加 えて、「再生可能エネルギー熱法」も施行され、建物 で消費される熱エネルギーの約20%はその建物で自然 エネルギーを使って発熱することが義務付けられてい ます。これらの基準は、建築申請の際に検査され、罰 則規定のある法律として運用されています。2009年 以降は、ブラインドやひさしを工夫し(参照右上写 真)、開口部を遮熱することまで義務付けられていま す。同時に、熱がベランダを通して建物に伝わった り、冷たさが部屋に入るのを防ぐため、ベランダなど と建物躯体を絶縁させる(熱橋対策)も義務化されて います。
また、建物の建築や改築の際、および不動産取引や 賃貸の契約の際には、住宅の燃費性能を示す、エネル ギーパス(参照 ページ右上)の作成が義務付けられ ています。このような取り組みはドイツだけではなく、EUにもひろがっており 2020年までには、新築はゼ ロエネルギーとする基準が 合意されています。 日本では、こうした住宅 の省エネ化は大幅に遅れて います。たとえば、日本 メーカーの販売する窓サッ シの最高レベルの製品は、 ドイツでは販売を許されない基準です。こうした住宅 は高価だと思われるかもしれませんが、例えば社団法 人クラブ・ヴォーバンが監修し、東京で施工した事例 では、設計時に建設コストの5%程度、工事費を追加 するだけで、暖房85%、冷房25%を削減できるという 結果がでています。このコスト増加分は15年程度でラ ンニングコストの低下分で償却できます。
交通分野でもCO24割減 目標
交通分野では、エネルギー消費量を2050年までに 40%削減するため、自転車を勢力的に推進していま す。これは、安価でもっとも実現性ある省エネ手段で す。ドイツでも、日本でも、日常では主に3キロ以内 の移動がほとんどですが、これを車交通ではなく、自 転車交通にシフトすること、あるいはそもそも交通手 段を必要とせず、歩いて買い物できるまちづくりをす すめていくことも都市計画、交通計画の主な目標と なっています。
37万人の雇用
省エネや再生可能エネルギーの普及は雇用を生み出 し、経済を促進します。ドイツでは、再生可能エネル ギーの分野で37万人の雇用が生まれています。とりわ け設備の取り付けなどの手工業、販売・流通で、太陽 光発電産業全体における60%の雇用が生まれています (ドイツ環境省調べ)。2020年にはこの数字は50万人 になるといわれ、確実に時代を担う産業になりつつあ ります。太陽光発電産業は、経済の弱い旧東ドイツに 集積されており、そこでは地元の重要な基幹産業と なっています。
ドイツではこのように、エネルギーだけではなく、 都市計画、まちづくりを含めた、技術だけではないエ ネルギーの削減に取り組んでいますが、これらの事例 でもお分かりのように法律で社会の枠組みを制定する ことが大切でしょう。その法律を決めるのは市民である皆さんです。