入管法「改正」案 外国人差別の法制化を止めよう | 認定NPO法人 環境市民

入管法「改正」案 外国人差別の法制化を止めよう

このコーナーでは、ウェブやメールマガジンの企画運営を行っている「電子かわら版チーム」メンバーのコラムを紹介しています。一緒に企画運営をしたいボランティアも随時募集中です。関心のある方は京都事務局まで。

2021年、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋の入管収容施設で、適切な医療を受けられずに亡くなった事件は、皆さんの記憶にも新しいでしょう。
入管、すなわち出入国在留管理庁は法務省の組織です。
日本国内に出入りする外国人や日本で働く外国人労働者を管理しています。
入管の施設に収容されるのは、在留期限を超え在留資格がないなどの外国人です。
そのオーバーステイの外国人が母国に帰るまでの準備をするための施設という位置づけです。

在留資格を失い「退去命令」を受けると、9割超の人は帰国します。
しかし、母国に帰ると迫害される恐れのある人、日本に家族がいる人、
日本暮らしが長く母国に帰る場所がない人など、様々な理由で帰る選択をしない人もいます。
入管庁はこの帰らない人が相当数いることを問題視しています。
そこで現在、国会で議論されているのが「入管法改正案」です。

2年前にもほぼ同様の法律案が国会に提出されました。
ウィシュマさんの死亡事件によって社会から大きな批判を受け、
成立は見送りとなりましたが、この春またぞろ国会に提出され、すでに衆議院を通過しています。
この法案が成立すれば、入管の権限が強化され、退去命令を受けた人に刑罰を科して送還を促進し、
また難民申請者の3回目以降の申請を拒否し強制送還させることが可能になります。
これは日本も批准する難民条約に違反しています。

しかし「送還忌避者」が多い理由は、
日本の難民認定率が諸外国に比べ格段に低いという事情があります。
主要国での数値を比較すると、ドイツ41.7%、フランス14.6%、イギリス47.6%、
アメリカ25.7%、カナダ54.9%、日本0.5%です。*
つまり、身の危険があるため母国に帰ることができない人を難民と認定しないことによって
「送還忌避者」が増えているのであり、難民認定率を諸外国並に上げれば
この問題は解消できると言えます。

入管という組織は戦前の特高警察の流れをくみ、
外国人を危険な存在と見なす体質があることを多くの人が指摘しています。
難民を保護するなど外国人の人権を守ることに適した存在でなく、
入管では収容者に医療を受けさせなかったり暴行を加えたりと数々の問題が明るみに出ています。
国連の人権委員会や拷問禁止委員会からも再三の改善勧告を受けています。
今、参議院で審議されている入管法改正案は、この入管の権限をさらに強化し、
外国人の人権を踏みにじる動きを強めるものです。
曲がりなりにも先進国と言われる国にあってはならないことです。

この度の入管法改正案を廃案にすることを求めるデモが各地で勢いを増し、
署名数も20万人を超えています。
気づかぬうちに外国人差別を法制化することに荷担しないよう、
この国会の審議に注目してみてはいかがでしょう。
(げの字)

*2020年。全国難民弁護団連絡会議の作成資料より

(参考)外部サイト
出入国在留管理庁:「現行入管法の課題」について
NHK解説委員会:入管収容 人権は守られているか
change.org:難民を虐げ、在留資格のない人の命を危うくする、 入管法改悪に反対します!
change.org:日本に生まれ育った未成年の仮放免者とその家族に在留特別許可を!
入管庁:UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)資料(PDF)

<今週のコラムニスト>

ペンネーム:げの字
環境市民の設立3年目からの会員で、かつて事務局スタッフとして広報や環境教育を担当。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」との宮沢賢治のことばが社会の共通認識になることを夢見て、一人からの実践と市民活動を展開している。