まちの節電、こんなことできるはず 10 | 認定NPO法人 環境市民

まちの節電、こんなことできるはず 10

このコーナーは,2002年から2013年まで環境市民の事務局長を務めた堀孝弘が,在職時に書いたブログを掲載しています。

  飲料自販機の消費電力がどれだけになるか、飲料自販機を設置している事業者から実際のデータをもらいましたので、それをもとに紹介します(このシリーズの「9」から続きでお読みいただくとわかりやすいと思います)。

前回例示した飲料自販機は、年間10万円弱の販売手数料(売上の20%)が入る一方、要した電気代は7万円強で、差し引き手元に残るお金は2万4千円強にしかならないことを紹介しました。月にして2,000円強。子どものお小遣い程度です。
設置場所は、駅前や繁華街など「優良地」ではありませんが、近くにスポーツ施設もあり、時おり大勢の人が通るなど「辺鄙なところ」でもありません。ですので、どこにでもある飲料自販機だと考えてよいでしょう。

では、その「どこにでもある飲料自販機」は、どれだけの電気を消費するのでしょうか。電力消費は設置場所の条件によって変わりますので、実際のデータはとても参考になります。提供を受けたデータは詳細に記載されているのですが、提供者への配慮で、概数で示すことをご了解ください。

まず年間の消費電力ですが、2,700kWh強(2010年3月から2011年2月)です。おもしろいのは、冷蔵や加温が必要ない5月や10月と、冷蔵・加温が必要な7〜9月、2月と比べて、1日あたりの消費電力が10倍違うこと。幾ら省エネが進んだとはいえ、冷蔵・加温が必要な時期には大きなエネルギーを消費することがわかります。

さて、飲料自販機の「年間消費電力2,700kWh強」を何に例えるとわかりやすいでしょうか。
よく、「飲料自販機の消費電力は、標準世帯の消費電力の○割程度」や「全国の飲料自販機の消費電力は原発1基分」といった例えがあります。
「標準世帯の消費電力」のデータとして、4,734kWhというデータがあります※1。これと比べると1台の飲料自販機は、1世帯の57%の電気を消費していることになります。他、京都市のデータで年間5,310kWhというデータがあり※2、これと比べると51%になります。ですので「飲料自販機の消費電力は、標準世帯の半分から6割程度」と言えます。

「標準世帯の半分」でも結構大きな数字ですが、もっとわかりやすくするため、身近な家電製品と比べてみましょう。

まず、家庭用冷蔵庫から比べてみます。冷蔵庫は、個人ユースの140リットルから大家族向けの600リットル超まで、様々な庫内容量があります。一見庫内容量が大きいほど消費電力も大きいように思えますが、最も売れ筋商品の省エネが進んでいて庫内容量と消費電力は比例しません。実は130リットル程度の小型冷蔵庫の方が、600リットル超の大型冷蔵庫より電気を消費することがありますので、購入時はご注意ください。
冷蔵庫の説明はさておき。家庭用冷蔵庫(間冷式)で最も省エネ性能が高いのは、庫内容量451〜500リットルクラスで平均250kWh/年※3。「飲料自販機の年間消費電力2,700kWh強」は大型の冷蔵庫11台分。まちのあちこちに並んでいる飲料自販機1台の消費電力が、冷蔵庫11台に相当すると考えると、結構インパクトがあるのではないでしょうか。

次にテレビと比べてみます。テレビも省エネが進んでいて、液晶32V型で年間消費電力は81kWh。テレビの場合、1日4.5時間視聴し、あとの19.5時間は待機状態として計算されますので、家庭によって消費電力にも幅があると思います。目安としてこの数字と比べると、飲料自販機1台は液晶32V型テレビ33.5台。これはインパクトというものを越えています。
家に33台もテレビを置いている人を見たことがありませんが、試しに液晶52V型の大型テレビとも比べてみます。液晶52V型テレビの年間消費電力は平均で171kWh。飲料自販機1台の消費電力はこの約16倍になります。トイレ、風呂、廊下、階段など、家中にテレビを設置して、それでも居間に10台近く設置することができますので、各局同時に観ることができます。かなりゴージャスですが、それだけの壁があるかどうか…。

もうひとつ、エアコンと比べてみましょう。エアコンは他の家電製品より消費電力が大きく、なかには飲料自販機1台に相当する電力を必要とするものもあります。ただし20〜30畳用のエアコン。こんな家、なかなかないと思いますが、皆さんのお宅はいかがでしょうか。
一般家庭用の8〜12畳用のエアコンと比べてみます。この場合、夏冷房、冬暖房、梅雨時は除湿に使った場合、年間消費電力(期間消費電力と呼びます)は、平均で923kWh。これだと3台で飲料自販機1台に相当しますので、ようやく例えが近くなりました。

ただし、エアコンの消費電力は冷房3.6ヶ月、暖房5.5ヶ月の9.1ヶ月間、朝6時から24時まで、毎日18時間使うと仮定して計算されます。一般家庭でまずこのような使い方をするところはないと思いますので、「エアコン3台」という例えは適切ではありません。

いずれにしても、1台の飲料自販機は大変多くの電気を消費しています。2台、3台並んで設置されている場合もありますが、売上も2倍、3倍になるわけでなく、それぞれが喰い合いをしているわけです。赤字を出している販売機も多くあると思われます。
赤字の自販機、コンビニやスーパーの店頭にあるもの(店内で同じものを売っている)、複数台並んで設置されている場合の半数。まずはこれらから、この夏だけでも販売を停止し、その分、病院や高齢者世帯などは、堂々とエアコンを使ってもらったらよいのではないでしょうか。

次回は、原発の発電量と飲料自販機の消費電力を比べてみます。

データの出典
※1 省エネルギーセンター
「平成20年度待機時消費電力調査報告書」
※2 京都市環境政策局地球温暖化対策室
「平成21年度 京都市内のご家庭における電気・都市ガス月間使用量(速報値)」
年間消費電力5,310kWh。家族人数は2.17人。
※ 3 省エネルギーセンター省エネ性能カタログ2010冬号より。
数値はクラス機種の平均値。
計測条件はJISの規定に基づく(以下、テレビ、エアコンも同じ)。

【写真の説明】筆者自宅近くの『自販機ホットスポット』
実はこのごちゃごちゃした景色のなかに、自販機が10台以上写っています。20m程度離れたところに設置されているものも含めて、自販機が計14台あります。たばこが2台、アイスクリームが1台、飲料自販機が11台。観光地が近くにありますが、平日の日中は閑散としていて、ほとんどの自販機が電気代を考えたら赤字でしょう。