21世紀、地球を、地域を、生活を、持続可能な豊かさに
3 人づくり
文:杦本 育生
私たちの社会の最も基礎となるものでかつ力となるものは人である。当たり前の話である。しかし社会の発展は、経済と技術が最重要であるという考えのもとに、私たちは人づくりに対する投資を怠ってきたのではなかろうか。例えば、日本の自治体ではどこでも、ハコモノ作りやイベントには自治体の予算はついても、人づくりに予算をつけることは難しい、ということがある。ハコモノやイベントは目に見えるもので「行政効果」もはかりやすいが、人づくりは効果が見えにくく、また時間もかかるというのが、主な理由である。しかし考えればすぐにわかることであるが、ハコモノやイベントはうまく活用できれば、地域づくりの手段や契機にはなりえるかもしれないが、地域づくりの主力にはなりえないのである。人づくりこそ、地域が取り組む最重要課題である。
それでは、ここでいう「人」とはどのような人でどこに必要なのであろうか。考察してよう。結論から言うと、ここで求められる人とは、持続可能な地域社会をつくる主体性のある人である。つまり他人任せにせず自ら率先力を発揮して行動できる人である。しかし従来型のリーダータイプの人間、つまり「俺についてこい」というタイプではない。このようなタイプは、自らは主体性があるが、他の人々の主体性は重んじないどころか、かえって主体性を削ぐことが多い。必要なのは他の人々の主体性を尊重しながら、みずからも主体性を発揮し、他の人々の相乗的な合意を生み出していく人である。そのような意味では多少に関わらず合意形成能力(コーディネート能力)も必要とされる。
このような人々が、様々な社会的セクターに求められている。行政の中に必要なことは言うまでもない。市町村長がそのような人であれば、地域社会に対して大きな影響力を及ぼすことが可能となる。ただ現状の市町村長には必ずしもこのような資質のある人が就いているとはいいがたい。また市町村長だけがこのような人であればいいというわけではない。ドイツの環境都市として成功してきているいくつかの自治体、また日本でも先進的な施策を打ち出してきている自治体をみると、必ず職員の中にこのような資質のあるキーパーソンがいることがわかる。反対にいくつかの自治体では市長はやる気満々なのだが、職員(特に部課長級)に変化を望まない旧態依然たる体質が身にしみていて、改革がほとんどすすまないという事例も見受けられる。
また、住民や企業セクターの中にもこのような人々が必要となる。地域エゴや企業利益、業界利益にとらわれない、社会的な益(パブリック・インタレスト)を大切にして行動できる人々である。
ただ、このような人々が日本の地域社会の各地にすでに存在すれば良いのだが、実際には、存在しないことが多い。それだからこそ、意識的に人づくりをすることが必要になるのである。その方法としては「地域コーディネーター」養成連続講座のような直接的なものから、例えば地球温暖化防止リーダー養成連続講座のような具体的な地域活動リーダー養成の中で取り組んでいくことも可能である。ただ養成講座も座学中心で効果は薄く、体験的な内容を中心にすることが求められる。さらに講座卒業生には実践の中で、その技術を磨き資質を育てていく仕組みを提供する必要がある。このような講座は、住民向けだけではなく、行政職員向け、もしくは合同でも行っていく必要がある。自治体の職員は、専門性においてもまたこのような社会的能力においても研修を受けることが非常に少ない。 また、自治体の各種の計画、例えば、総合計画、環境基本計画、緑の基本計画、ごみ減量計画などの作成過程及び実施過程において本格的な住民参画をとりいれることができるならば、まさにその過程において、このような人づくりが可能となる。