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7 行政、企業の「本業」にかかわるパートナーシップ事例
杦本育生(環境市民代表理事)
7 行政、企業の「本業」にかかわるパートナーシップ事例
パートナーシップは、市民、NGOセクターが行う活動に行政や企業が何らかの支援連携を行うという形が多い。そのようなパートナーシップは重要であるし今後も拡大、充実させていくべきである。それとともに行政、企業の「本業」に市民、NGOセクターが参画するパートナーシップを創っていくことも重要であるので、その事例を紹介しておこう。
(1) 国内事例 NGO・市民団体と企業
「環境市民」は、地球温暖化防止京都会議(COP3)に際し、大手スーパーチェーンのジャスコとパートナーシップで市民向けのキャンペーン活動を延べ45日間にわたって行った。その中でジャスコの商品を例にとって、環境負荷の多いもの少ないものを見分け、できるかぎり環境負荷の少ない商品を購入しようという呼びかけを、買い物にきたお客さんが体験学習できる形で行った。マイカー観光から公共交通を利用するキャンペーンとして環境市民は叡山電鉄とパートナーシップを組み「エコモーション」号を走らせている。外装を自然をモチーフにしたデザインを施した列車を走らせ、また車内広告を環境保全を訴えるポスターなどに切り替えた電車は、毎日の定時運行に使われているほか自然観察会などの催しに用いられている。また、環境市民は修学旅行の体験学習プログラムとして「京都エコ修学旅行」を開発し、近畿日本ツーリストと提携してその実施にあたっている。このプログラムは従来の寺社をポイントとしてまわるものから、その寺社を育んだ京都のまちの文化とそれを支えてきた自然について、面的にしかも生徒が自ら学ぶ形で行われている。生活クラブ生協北海道は、風力や太陽光の発電所建設基金づくりを、毎月の電気料金に5%を上乗せして集めるシステムを開始した。組合員の家庭の電気料金に5%を基金とし上乗せし北海道電力に代わって徴収する。そしてその基金分を除き北電に一括納入する。北電は、この料金徴収システムを了解し、また基金によって建設された発電所の電力を購入することに合意している。これらのパートナーシップ事例は、各企業の本来事業に関して行われているものであり、環境保全と事業活動がともに推進できる仕組みをもっている。
(2) 国内事例 NGO・市民団体と自治体
福井県武生市の行政及び市民団体と環境市民は、パートナーシップでエコシティづくりに取組始めている。その取り掛かりとして「武生エコシティ連続講座」「環境教育リーダー養成講座」を共同開催した。ともにエコシティづくりは人づくりからという観点から実施された。エコシティ連続講座は実行委員会が形成され、従前から、武生市でまちづくり、環境、消費者、市民参画などに取り組んできた市民団体に環境市民も加わり、市と共催する形で行われた。企画運営も活発な忌憚のない意見が交わされ、6回の講座とまとめの市民討論会が第1期として98年度に開催された。世界の事例紹介や基本的実践的な学習とともに、講師を含めた意見交換が行われ、市長もほぼ毎回参加した。この講座は今後も開催し、武生市をエコシティにしていく人材の発掘、学習、ネットワーク化を図っていくことが期待されている。また環境教育リーダー養成講座では実際に地域において環境教育を実践できる人を養成するため、実践的なノウハウや考え方を学ぶものである。この講座も毎年開催し、地域でのリーダーづくりと実践活動の普及により市全体として環境問題に取り組む盛り上げが狙われている。今後更に武生市では市民参画のパートナーシップ型で、市政の中心課題とした環境問題に取り組む予定である。
(3) 海外事例ドイツBUNDと自治体、企業
近年、海外において「本業」にかかわるパートナーシップ活動が行われている。その中で環境調和型ライフスタイル形成の事例として、ドイツのNGOであるBUND(ドイツ環境自然保護連盟)のパートナーシップ活動を紹介する*。フライブルク市の推進しているエネルギ-政策のもと、市民の持続可能なエネルギ-への意識は高い。例えば、市民は自分の住宅にソ-ラ-をつけることができなくても、公共施設に取りつける共同ソ-ラ-発電装置に共同出資市、運営することができる。BUNDはフライブルク市が出資する電気供給事業社FEW(フライブルク・エネルギ-・水給仕業者)と交渉して、共同ソ-ラ-発電装置で生産された電力を通常の2倍の価格で売却できるようにした。そしてその利益を出資者に配当している。市民がCO2削減に貢献していることを実感できるという点で、また、エネルギ-自立の街づくりの面からも大切なのだ。そしてこの方法を他の町にも紹介し同じような取組を行うところが出てきている。
フライブルク市から30Km程離れたところにある、シュッタ-タ-ルでBUNDと自治体が共同で風力発電プロジェクトを進めている。投資額160万マルクにのぼるこのプロジェクトには、シュッタ-タ-ルの住民とBUNDの会員、企業などが出資し、国の助成貸付金も融資されている。この設備が完成すれば、この地域の1000世帯分の電力を供給することができる。そして、風力発電で得た電力は売却され資本出資した人たちに分配される。つまり、市民は出資することで、税制優遇の措置により経済的観点からも、環境保全に積極的に貢献するという面からも満足を得ることができる。
フライブルク市はが行っている、自動車交通優先から公共交通優先の街へと転換は日本でも有名な事例となっている。その中で地域環境定期券の発行も大きな役割を果たしているが、先にこのシステムを導入していたのはスイスのバ-ゼル市で、公共交通機関の利用が増大していた。それを調査済みだったBUNDは、地域環境定期券を実現させるために政治家や行政マンをバーゼルに視察同行し、そのシステムを実際に見せることによって、より具体的に示しその必要性を認めさせた。こうして地域環境定期券は導入された。
BUNDとドイツ青年企業同盟が主催して行われている毎年開催されているエコメッセはフライブルクが発祥の地である。現在も2年に一度はフライブルク市で行われている。市長も後援者として名を連ねているこのエコメッセには、多くの企業が環境対応型型商品を展示して参加しており、グリーンな市場を形作るのに大きな推進役を果たしている。また環境NGOもワ-クショップを開くなどして、毎年大勢の市民が訪れている。
地方分権が進んでいるドイツでは市が決定権を持っている事柄が多くある。交通、エネルギ-、森林・自然保護、建設基本計画、自動車速度制限などに関してがそれで、環境を考えた取り組みをどのような形で行えるのかが示されている、環境基準のチェックリストも作成している。この環境チェックリストでどの自治体(地域)が、環境に配慮したどのようなシステムを導入したかがわかるようになっている。これは、フライブルク市の都市計画局からの依頼でBUNDが作成したものである。この他にもフライブルク市のさまざまな事業にBUNDが関わっているが、日本と根本的に違うのは、その契約関係である。例えば、BUNDがある事業を提案したとき、フライブルク市が必要と考えればその事業に対して市から資金提供され、BUNDに対しても報酬が支払われるのである。BUNDと市は準契約関係にあるという。
*BUNDのバーテンビュルテンベルク州の事務局長であるシュルツ氏への取材による(コーディネート通訳・中曽利雄、記録作成・下村委津子)
経済企画庁国民生活局編集「パートナーシップでつくる環境調和型ライフスタイル」(1999年発行)、第4章 市民(市民活動団体)、企業、行政の連携に向けて 「2.市民活動と行政、企業とのパートナーシップ(環境市民 本育生)」(88ページ)から引用