第3回:COP10で注目される議題その2 遺伝子組み換え生物『責任と修復』のルール | 認定NPO法人 環境市民

第3回:COP10で注目される議題その2 遺伝子組み換え生物『責任と修復』のルール

JAPAN: Don’t Let Consumers Down Make Liability a Reality!
日本よ─消費者を裏切るな 補償制度の実現を!

文/ 「ECO」日本語化プロジェクト コーディネーター 原野 知子

・・・このフレーズは、2008年ボンでのCBD /COP-MOP4(注1)開催中に発行された『ECO』に掲載された記事のタイトルです。「日本が消費者を裏切る」とはどういうことなのでしょうか?

・・・カルタヘナ議定書

生物多様性条約では、遺伝子組み換え生物(以下、GMO)が在来生物とは全く異なる生物であって、生物多様性の保全に大きな影響を及ぼすため、それが国境を越えて移動することに規制が必要であるという考えから、カルタヘナ議定書が採択されています(注2)。160ヶ国(2010年8月現在)が締結していますが、食糧輸出国のアメリカ、カナダ、オーストラリアなどは未加盟です。バイオセーフティ議定書ともいわれるこの議定書の大きな特徴は、予防原則が明記されていることです。予防原則とは、その危険性について科学的に不確実で証明されていないことであっても規制を行うという制度・考え方のことです。

・・・積み残されたままの課題

カルタヘナ議定書は2003年に発効していますが、第27条「責任と修復」(注3)は詳細で合意が得られず積み残されている条項です。それは、輸入GMOで健康被害や環境破壊が起きた場合、誰が責任を取り、補償や環境修復などの対策をどのように取るかということを定めるものです。

この第27条を補足する詳細ルールについて、MOP4で大筋合意までこぎつけたのですが、日本がブロックしたため結局採択には至りませんでした。日本の主張は、法的拘束力のある議定書としての発効に反対すること、被害が起きたときの責任をGMO輸出側(開発・製造業者など)ではなく、輸入側が行うことなどです。

日本は大豆、とうもろこし、ナタネなど毎年1,600万トンのGMOを輸入していて、これは国産コメ生産量の2倍近くになります。ところが、輸入GMOの被害者になりうる日本が、輸出国やバイオ産業が有利になる発言をしていたのです。

それが冒頭のフレーズの非難の理由です。海外NGOから、「日本はアメリカの拡声器(代弁者)」と揶揄され、「Anywhere but Nagoya!(次のCOP開催は名古屋以外ならどこでもいい)」と書かれたビラもまかれました。私がボンに着いたのはこの直後で、NGOミーティングで「もう1回日本に対するネガティブキャンペーンをしよう」という提案があった時には所在ない思いでした。

・・・態度を変えた日本

MOP4以後、「責任と修復」補足ルールの採択に向けた会合が2回行われましたが、議論は後退するばかり。ところが今年の6月、3回目の会合では今まで強硬な態度を取り続けてきた日本が、巻き返しを期する途上国の提案を黙認したのです。海外NGOも驚いていました。この結果、補足ルールはかなりの部分で合意が進みました。

実は、第2回までの“交渉”は全て官僚によるもので、大臣などの国会議員・政治家はほとんど関与していませんでした。そこで、MOP5に向けて立ち上げられた「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク(MOP5市民ネット)」などが、GMO輸入国としての立場を取り国益を守るようにと、議員向け学習会などのロビー活動を行いました。政権与党が変わったこともあり、第3回会合の直前、外務・農水・環境副大臣会合が開かれ、官僚に指示が出されたとのことです。今回の出来事は政治主導という言葉を実感することになりました。

・・・市民として何をするのか

私自身、COP9参加後しばらくは、日本政府に対して「情けない」という気持ちを抱いていましたが、いろいろ学ぶうちに「私たち市民にも大きな責任がある」と考えるようになりました。カルタヘナ議定書について、MOP4以前は日本のNGOはほとんどフォローしていませんでしたし、GMO食品の表示義務がEUに比べて国内ではたいへん緩いこともあまり知られていません。冒頭の“JAPAN”には政府だけでなく、私たち市民も含まれていたのです。
生物多様性を守るために、毎日の生活の中で自分の口に入る物の情報を得ること、知らされていない事実を把握すること、そして政府を監視して意見を述べること ─ 物言う消費者として行動すること、それが私たち自身を裏切らないためにも必要なのです。

注1)バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書第4回会合。MOPは毎回COPの直前に開催される。
注2)生物多様性条約第19条の3「締約国は、バイオテクノロジーにより改変された生物であって、・・・議定書の必要性及び態様について検討する」
注3)日本政府は「責任と救済」と訳していますが、日本のNGOは「責任と修復」とすべきと主張。
参考文献:真下俊樹 カルタヘナ議定書第27条「責任と修復」交渉関係資料(2010/05/27)、同 CR消費者リポート第1467号
MOP5市民ネット

(みどりのニュースレター 2010年9月号 No.208より)

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